それを象徴するのは3月15日の『世界消費者権利デー』当日の夜、中国中央テレビがニコンを標的にした特別番組を放送したことだ。いわく「ニコンのデジタルカメラで撮影した画像には黒い斑点が写りこむ。これは欠陥があるからだ」と指摘、払い戻しや交換を求める顧客に対してニコン側のスタッフが反論を述べる映像を隠し撮りして放送、「会社の対応は不十分だ」と斬って捨てたのである。
中国では毎年3月15日、外国企業を狙い撃ちしたキャンペーンが巻き起こる。とりわけニコンを標的にした中国中央テレビの特番は「国民的人気番組」とされ、最高人民法院や最高人民検察院など国家権力が協力することでも知られる。当然、放送直後には政府の息がかかった国営メディアが追随批判し、昨年は米アップルが「中国での保証期間が欧米よりも短く、差別している」とヤリ玉に挙がり、会社側が全面謝罪して矛を収めた経緯がある。
今回、上海の行政当局がニコンに対しデジタル一眼レフカメラ『D600』の販売停止を命令。これを受けニコンの現地法人は謝罪文を発表、既に中国での販売は終了していたものの、在庫を抱えるディーラーに販売中止を指示し、在庫はニコンが自主回収する。その意味でニコンのダメージは限定的だが、同社にとって中国は連結売上高の11.7%を占める。中国メディアの“追撃”がなかったのは不幸中の幸いだが、実は米国ではD600の欠陥を主張する集団訴訟が起きており、これが世界に飛び火しないとも限らない。中国のナショナリズムを刺激する3・15を辛くもクリアしたとはいえ、同社首脳が高枕を決め込むのはまだ早いようだ。
そのニコンに代わって中国で集中砲火を浴びかねないのが東芝である。同社は先ごろ、2005年7月から'11年11月にかけて生産した30種類、58万3675台もの洗濯機に発火の恐れがあるとして、日本や台湾でリコールを行うと発表した。このリコール対象に中国が含まれていないことから、3月13日付中国メディアの新京報が「なぜ中国は対象から外れたのか」とかみついたのである。
要約すると東芝は'08年以来、ノートパソコン、カラーテレビ、洗濯機などで少なくとも3回にわたってリコールを行ったが、いずれの場合も中国は対象外だった。今回も蚊帳の外だ。なぜ中国だけが毎回リコールの対象外なのか−−と被害者意識を全面に出して畳みかけたのである。
この指摘に対し、東芝の答えは明快だ。即ちリコール対象の洗濯機はタイで製造し、中国では販売されていない上、電圧の関係から中国では使用できない。従ってリコールの必要がない、というのである。しかし、中国メディアに詳しい関係者は「彼らが簡単に引き下がるわけがない」と断言する。
「ニコンを血祭りにあげられなかった反省から、今後はシャカリキになって東芝を攻め立てるに違いありません。多分、屁理屈を並べて中国市場から放逐しようと画策する。問題はこれに東芝がどこまで耐えられるか、です」
その中国メディアを巡って、笑うに笑えない話がある。パナソニックは中国駐在員に対し、4月から健康に配慮して『大気汚染手当』、いわゆる“PM2.5手当”を支給する。対象者や支給額は公表されていないが、中国人スタッフは対象外となる。中国メディアがこのことを報道すると、インターネットには 「中国人はPM2.5を吸っていろということか」「小日本は中国人をいじめている」などの信じ難い書き込みが溢れたのである。
「本来ならば『途上国手当』とすべきところを、パナはバカ正直な呼び名にしたから騒ぎが大きくなった。とはいえ大気汚染を招いたのは中国で“危険手当”を払う日本企業が非難される筋合いはない。これじゃあ、世界第二の経済大国が聞いて呆れます」(経済記者)
折しも3月18日には中国の裁判所が、戦時中の強制連行を巡って三菱マテリアルなどに損害賠償を求めていた中国人元労働者らの訴状を初めて受理した。日中国交正常化をうたった1972年の共同声明で中国は日本への戦争賠償の請求を放棄したが、悪化する両国関係を踏まえて習近平指導部が「本気で牙を剥いた」と中国ウオッチャーは指摘、こう続ける。
「太陽光パネル大手がデフォルト(債務不履行)となったように、中国経済の雲行きがにわかに怪しくなってきた。当局の目が届かない影の銀行も“バブル崩壊前夜”にある。この先、中国経済は何があっても驚きません」
だからこそ日本への宣戦布告も辞さなくなった習政権の“次の手”が不気味なのだ。