この自粛ムードの影響を最も受けているのが、歓楽街である。
「日本人向けの飲み屋やカラオケ店が集まるタニヤ、ゴーゴーバーが集中するパッポンなどは閑古鳥が鳴いてますよ。普段はネオンがギラつく店も、多くは自主的に休業してますし、開いていてもアルコール禁止だったり、閉店時間が繰り上げられていたりと、ゆっくり遊べる雰囲気じゃない」(現地駐在の日本人ビジネスマン)
こうした店で客と交渉し、いわゆる「連れ出し」で生計を立てる売春婦たちの嘆きは、もっと切実だ。
日本人クラブで働くジョイさん(21)が本音を明かしてくれた。
「国王を敬愛する気持ちは私たちも同じですから、国全体が喪に服すのは当然です。ただ、政府が決めた1カ月間の娯楽施設の閉鎖は、私たちにとって『死ね』ということと同じです。私は18歳から体を売って仕事をしているから、これ以外に稼ぐ方法がない。田舎にいる2歳の子供のためにも働かなきゃいけないんです」
バンコクは、サンパウロ(ブラジル)、ナイロビ(ケニア)と並ぶ「世界三大性地」といわれ、政府統計で6万人、現地紙による調査などでは30〜60万人が売春従事者(含む男性)だとされている。
そんな“影の主要産業”を支える彼女たちは、今どうしているのか。
「店で交渉ができないから、喪服を着て、路上で声を掛けてくるんです。いわゆる立ちんぼが通りにあふれていて、異様な光景が広がってますよ」(前出・駐在員)
とはいえ、街では駐車違反ならぬ“自粛違反”に目を光らせる警察や軍のパトロールも警戒を強めており、イタチごっこが続いているというのである。
「これで警察に捕まっても仕方ない。釈放された日から、またここに立つしかないわよ」(前出・ジョイさん)
こんな状況にもかかわらず、街角の日本人男性たちからは、「喪服姿もいいな」「結構セクシーだな」などという不謹慎な会話が聞こえてくる。
今回は政府関連施設や学校などで30日間の半旗掲揚が決まった。民間での服喪も30日だろうと地元民の間では言われている。喪が明け、タイに活気が戻るのもあと少しだ。