ヤクルト株の20%を保有するフランス大手食品メーカー『ダノン』が28%までの買い増しと常勤役員の派遣を求め、執拗に揺さぶりを掛けている。UBS証券など欧州系の証券会社は、「交渉が決裂した場合でもその可能性は低い」としているが、大手証券マンは「これぞ欧州連合軍による煙幕作戦」と切って捨てる。
「もし彼らが早い段階で敵対的TOBを言いはやせば株価が急騰し、当初から狙っていた重要議案に拒否権が行使できる35%程度への買い増しコストが膨らむ。それよりは株価を極力抑えた方が得策です。同じ欧州勢ですからその辺の意思疎通に抜かりはありません」
実際、前述したUBS証券はヤクルトの投資判断を3段階の2番目から最下位に引き下げながらも、目標株価は大きく引き上げるなど奇妙な動きを示している。
「そもそもダノンは、高度な乳酸菌技術を誇るヤクルトを丸のみしたい野心があった。だからこそヤクルトがデリバティブ取引で大穴を開けた2000年4月、株安に乗じて5%の株を取得して一気に外堀を埋め、その後も買い増して戦略的提携にこぎ着けた。今回は'07年に結んだ『5年間は出資比率を維持する』との契約が5月15日で切れることから35%の取得を迫り、ヤクルトが難色を示すと28%に譲歩、誠意の見返りを求めるシタタカサを見せつけている。その延長には腕力での株買いあさりが透けてきます」(市場関係者)
ダノンは世界120カ国でヨーグルトやミネラルウオーター事業を展開し、売上高は約2兆1000億円。一方、ヤクルトのそれは3059億円(昨年3月期)。体力格差は誰が見ても歴然としているが…。
一方、欧州自動車最大手のフォルクスワーゲン(VW)との提携解消を巡って対立するスズキも“蛇に睨まれた蛙”である。もはや提携メリットを感じないスズキはVWとの関係をさっさと断ち切りたいが、同社株の19.9%を保有するVWの首脳は4月19日の株主総会で「'09年1月の出資時に比べスズキの資産価値が上がっており、売却する考えはない」と従来の方針を繰り返した。
ところが、こんな膠着状態に風穴を開ける究極のアングラ情報がささやかれている。マツダがスズキの“ホワイトナイト”役となってVWが保有するスズキ株を買い取るのではないか、との見立てである。
その根拠とされるのは、マツダが3月に行った総額2142億円に及ぶ空前の大型増資だ。当初、同社は1000億円の調達を目指していた。ところが環境技術開発や新興国進出など資金の使途を明示したことから投資家の応募が海外を中心に5000億円規模に達した。目標を大幅に上回る人気があったこと自体、今年の3月期で4期連続の最終赤字を垂れ流す同社にとっては嬉しい誤算に違いない。しかし、関係者はその裏を深読みする。
「実をいうとマツダは銀行のコミットメントラインが2000億円もあり、資金繰りには困っていない。それにもかかわらず目標を大きく上回る巨額増資を断行したのは、スズキとの提携交渉が水面下で進んでおり、この果実を得るにはVW保有のスズキ株の買い取りが最も効果的だからです。しかしホワイトナイトを前面に出せば話がつぶれる。そこで資金使途の透明性をアピールすることで、腹の内を隠し通そうとしたのです」
両社はマツダがOEM(相手先ブランド名製造)で軽自動車をスズキから購入している間柄。スズキがVWの呪縛から解消されると同時に“電撃的合併”などという話もありそうだ。
今後が注目という点ではガラス大手の日本板硝子も負けていない。同社は4月18日、クレイグ・ネイラーCEO社長が「事業戦略の方向性などで取締役会と自分の間に相違があった」として同日付で取締役執行役に退き、吉川恵治副社長がCEO社長に就任した。
同日、記者会見したタレント千秋の実父でもある藤本勝司会長は「解任ではない」と強調したが、ネイラー氏は'10年6月に米国デュポンの上席副社長から一本釣りされて就任したばかり。前年には買収した米国子会社出身のスチュアート・チェンバース社長が「日本で社長にとどまると16歳の息子が見知らぬ他人になってしまう」と在任わずか2年で退いている。この時は藤本会長が社長に復帰したが、2人の外国人社長が短期間で唐突に辞任しているからには「奥の院で何があったのか」と世間の関心を呼ばないわけがない。
「ネイラー社長は社長人事を決めた4月18日の取締役会を欠席し、記者会見もすっぽかした。よほどの事情があったに違いありません。一部には“第2のオリンパス”を危惧する声さえ聞かれます」(経済記者)
そのオリンパスは4月20日の臨時株主総会で経営陣を刷新、笹宏行社長の下、自力再建に踏み出した。しかしマネースキャンダルを暴こうとして返り討ちに遭ったマイケル・ウッドフォード元社長は、笹社長を「グローバル経営の経験がなく、社長の資格はない」とバッサリ切って捨てた。しかも同社株を保有し、新経営陣への監視を怠らない海外の投資ファンドは、粉飾決算に深く関与した人物が財務部門のトップに抜擢されたことに「なぜだ」とガバナンスへの不快感をあらわにしている。
「臨時総会を乗り切ったとはいえ、次は6月総会が控えている。修羅場はまだまだ続きます」(同社OB)
オリンパスでは人材流出も激しい。3月末にはドル箱の医療事業で、最先端機器の開発者も飛び出た。
青い目ショックは、黒い目にまで波及しているのだ。