■前半戦の総括
日本人大リーガーの最大の強みは、先発投手に人材が豊富なことである。今季はダルビッシュ有、岩隈久志、田中将大、前田健太の先発4投手のうち、田中とダルが開幕投手(エース)、岩隈と前田が先発2番手にランクされて開幕を迎えた。
しかし、開幕後は散々の出来だった。
前田は第1、第2の武器であるスライダーとチェンジアップの制球に苦しみ序盤は大乱調で、6月上旬にはローテーションから落ちてしまった。それ以降は谷間の先発とロングリリーフを兼ねるスイングマンとして使われ、まだローテに復帰できていない。
昨年日本人最多の16勝をマークした岩隈は、序盤はまずまずの投球を見せていたが、5月上旬に右肩の炎症でDL入り。7月上旬になっても、復帰のメドが立っていない。
5月中旬には、日本人投手では一番安定していると思われた田中が制球難になり、最大の武器であるスプリッターとツーシームが浮いてホームランを頻繁に食うようになった。このスランプは6月中旬まで続き、一時は防御率が6点台半ばまで上昇。エースの座が危うくなった。
この3人と好対照をなしていたのが、ダルビッシュだ。ダルは味方の得点援護に恵まれなかったため勝敗は6勝7敗だが、ローテの柱としてフルに機能。リーグで3番目に多いQS12をマークしている。
それ以外の選手ではイチローが4、5月のスランプが響いて貢献ポイント(WAR)がマイナス評価。青木宣親も出塁率が期待値を大きく下回ったためマイナス評価となった。リリーフ陣では上原浩治がまずまずの働きを見せたが、田沢純一は開幕から出るたびに失点した挙句、DL入りした(6月22日に復帰)。
日本人選手全体で見ると、8選手の年俸合計は7140万ドル(78.5億円)。だから、シーズン前半のサラリー合計はその半分の3570万ドル(39.3億円)ということになるが、貢献ポイントから算出した評価額は1180万ドルだ。これは給料の3分の1程度しか働かなかったことを意味する。
■シーズン前半のMVP=ダルビッシュ有
例年、日本人選手は半分以上がサラリー以上の働き、つまりカネに見合った働きをするので、MVPの候補者には事欠かないのが常だ。しかし、今季前半、カネに見合った働きをしたのはダルビッシュしかいなかった。
■シーズン前半のLVP=田中将大
候補になったのは、田中、前田、田澤の3人だ。
田中は今季前半1100万ドル(12.1億円)のサラリーを食みながら240万ドル(2.6億円)分の貢献しかできなかった。前田は実質400万ドル(4.4億円)のサラリーを食みながら240万ドル(2.6億円)の貢献だった。一方、田澤純一は今季前半250万ドル(2.8億円)のサラリーを食みながら、120万ドル(1.3億円)分、マイナス貢献となった。
この3人のうち田澤は今季、ほとんどが重要度の低い場面で使われていたので、チームの足を著しく引っ張った印象は希薄である。
それに引き換え、田中も前田もローテーション投手なので、スランプが続いた頃は、チームの疫病神になっている感があった。
その印象がとりわけ強かったのが田中だ。なぜならチームが上昇気流に乗った5月半ばから6月にかけて1人だけ滅多打ちに遭い、ブレーキ役になっていたからだ。
田中は、デレク・ジーターの永久欠番セレモニーが行われた祝賀ムードの中での試合でもメッタ打ちにあい水を差している。これも、大きなマイナス点になる。
■ベストゲーム=6月23日のヤンキース対レンジャーズ戦
この試合は田中とダルビッシュの、メジャーでの初対決となったゲームである。田中は前のゲームまで、制球難で本塁打を打たれまくっていたので、大方はレンジャーズの圧勝を予想していた。しかし、田中はスライダーとスプリッターの制球がよく、初回から危なげのないピッチングを見せた。
一方、ダルもフォーシームとスライダーの制球がよく、両者相譲らず投手戦になった。結局、ダルは7回を2安打無失点に抑えて10奪三振。田中も8回を3安打無失点に抑えて9個の三振を奪う快投を見せた。
この一戦は、今季行われたゲームの中で屈指の投手戦と評価されただけでなく、絶不調だった田中が甦るきっかけを掴んだゲームでもあるため二重に意義がある。
スポーツジャーナリスト・友成那智(ともなり・なち)
今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は大リーグ関連の記事を各媒体に寄稿。日本人大リーガーにも愛読者が多い「メジャーリーグ選手名鑑2017」(廣済堂出版)が発売中。