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『アリアドネの弾丸』第9話、冤罪事件に際どい演出

 フジテレビ系ドラマ『チーム・バチスタ3 アリアドネの弾丸』の第9話「20年目の再犯」が9月6日に放送された。今回は実在の冤罪事件をモデルとしながら、冤罪被害者が実は真犯人であった可能性をも匂わせる際どい演出となった。

 ドラマでは20年前に女子高生を殺害した罪で逮捕された松崎行雄(六平直政)の冤罪が明らかになり、親子の感動の対面も果たした。ところが、松崎が釈放された直後に20年前の事件と同じ手口で女子高生が殺害される事件が起こる。警察庁の斑鳩芳正(高橋克典)や逃亡中の宇佐美壮一(福士誠治)は松崎を真犯人と決めつけて動き出し、劇中では松崎が真犯人でないかと思わせる演出もなされた。
 松崎事件は精度の低いDNA鑑定に基づいた思い込み捜査による冤罪事件であった。これは実在の足利事件を想起させる。冤罪被害者は人生を破壊されてしまう。無罪を勝ち取って釈放されても、失われた人生は戻らない。しかも日本社会には逮捕された人物を犯人視する発想が根強い。
 そのような中で冤罪被害者を真犯人と思わせる演出は、冤罪被害者や支援者を傷つけかねない内容である。フィクションを銘打っているとしても、実在の冤罪事件を想起させる事件を題材とする以上、冤罪事件に対する制作者の見識が問われる。

 その一方で今回は、冤罪を生み出す警察の悪しき体質に踏み込んだ。『アリアドネの弾丸』ではAi(死亡時画像診断Autopsy Imaging)を阻止しようとする警察庁の人間が悪玉であるが、これまでは斑鳩と北山錠一郎(尾美としのり)刑事局審議官、宇佐美の三人が三者三様に描かれて、卑小な悪役にとどまらない存在感を放っていた。
 これは現実の警察不祥事とは相違する。警察不祥事で登場する人物は保身や責任逃ればかりの金太郎飴で、人間の顔が見えない。冤罪事件で謝罪はしても、人間としての顔が見えないために空虚である。それに対して斑鳩や北山、宇佐美は自分達の思惑で動いていた。一線を越えた宇佐美も警察組織の歯車ではなく、北山審議官への個人的忠誠で動いている。だからこそ宇佐美の心理描写も心を打つドラマになった。
 しかし、今回の三人は警察の悪しき体質を体現する金太郎飴になった。宇佐美が北山に恩義を感じる理由が明らかになるが、警察不祥事で散々批判されている身内に甘い体質に過ぎない。宇佐美を擁護した北山も松崎の逮捕時には思い込みからの凶暴性を発揮しており、宇佐美と同類である。実際、宇佐美に脅迫まがいの一方的な事情聴取をされた松崎は、そこから北山を連想している。
 そして北山・宇佐美の暴走と表向き無関係な斑鳩も、逃亡中の宇佐美を子飼いにする一方で、宇佐美の存在を脅しに松崎の自首を求める。どこまで斑鳩が北山・宇佐美の計画を知っていたかは明かされていないが、完全に共犯者になっている。警察庁トリオは個性が弱まり、組織悪の歯車に近づいた。

 この状況で白鳥圭輔(仲村トオル)は「松崎さんが犯人だった場合、一番得をするのは警察。松崎さんの犯行に見せかけた別の誰かの仕業だったりして」と相変わらず鋭い指摘をする。冤罪被害者を傷つけるドラマに終わるのか、冤罪を生み出す警察の組織悪に斬り込むのか。『アリアドネの弾丸』の社会性に注目である。

(林田力)

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