台湾への旅行者から始まったと見られる沖縄県でのはしかの流行が、あっという間に本州へと広がり、累計感染者数は11都府県で130人(5月12日時点)を超した。
世田谷井上病院理事長の井上毅一氏が、その脅威をこう説明する。
「はしかは、パラミクソウイルス科に属し、麻疹ウイルスの感染によって起こる急性熱性発疹の感染症です。麻疹ウイルスは人のみに感染して、発症した人から人へと感染していく。感染力はインフルエンザよりも強く、麻疹に対して免疫がない人が感染すると90%以上が発症します」
江戸時代まで日本では「命定め」の病として恐れられていたはしかだが、現代ではビタミンAが不足していると重症化しやすいとされ、発展途上国における死亡率は、10〜30%に達するという。
「かつては幼児の病とされていましたが、今は大人の病気で、日本でも死に至ることがあるのです」(同)
予防の唯一の方法はワクチン接種なのだが、一度の接種では十分な免疫がつかないことや、年数を経ると免疫が低下することもあり、2回接種で確実な免疫がつくとされる。
「その予防接種は1978年に定期接種になりましたが、その時は1回のみ。さらに'88年からは複合ワクチンの接種が始まったものの、副作用により'93年に中止している。その後、1歳と小学校入学前に受ける2回接種が始まったのが2006年からのため、現時点で20代後半から40代の世代あたりが、接種を受ける機会が1回、もしくはなかった人が最も入り混じる“空白地帯”となっているのです」(健康ライター)
一方、50代以上の世代の場合は、子どもの頃に自然感染によって発症し、すでに抗体ができている可能性が高いという。
「麻疹は、患者のくしゃみなどに含まれるウイルスを鼻や口から吸い込んで感染する飛沫感染、ウイルスが付着した患者の体や物に触れることでうつる接触感染にとどまらず、空気中に漂うウイルスの飛沫核を吸い込み感染する空気感染もあり、これが拡大させる最大の原因なのです」(前出・井上氏)
免疫が低下している場合は特に、発症すると肺炎や脳症などの合併症を起こしやすい。さらに、まれにだが、潜伏期間を経て数年後に中枢神経症状が起きるというから侮れない。
「子供の頃に予防接種しているから大丈夫」「一度免疫がつけば一生持続するから大丈夫」と思っている方、予防接種は2回必要ということを覚えておこう。