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プロレスラー世界遺産 伝説のチャンピオンから未知なる強豪まで── 「天龍源一郎」真っ向勝負を貫いた“ミスター・プロレス”

 引退後は芸能方面でも大活躍を続ける天龍源一郎。プロレスラーとしての激しいファイトとは一転して、コミカルな役柄もこなす姿を意外に思うファンもいるだろう。

 だが、こうして何でも受入れて己の糧にすることは、現役時代から変わらぬ天龍本来の姿でもある。

※ ※ ※

 転職や再就職にはいろいろと苦労がつきまとうもので、これは一般社会もプロレス界も変わらない。

 前職で実績があればあるほど、新天地での期待値が高まり、うまくいかなかったときには余計に批判されることにもなる。

 大相撲の横綱として、鳴り物入りでプロレスに転向した輪島大士や北尾光司は、その代表例と言えようか。
「プロレスをどこか見下していた北尾と転向時点で38歳だった輪島では、やや意味合いは異なりますが、大成しなかったということでは同じでしょう。元柔道世界一の小川直也にしても、いわゆるプロレス的な動きにおいてはぎこちなさが抜けなかった。橋本真也のように、小川の格闘技風スタイルを全面的に受け止める相手以外では、凡戦が目立ちました」(プロレスライター)

 確かに柔道日本一の坂口征二にしても、小川と同様に決してうまいレスラーではなかった。

 逆に成功例というと、まずは元大相撲関脇の力道山。ただし、プロレス自体が日本において認知されていない時代であり、力道山のスタイルこそがオリジナルということで通じたのだから、その部分での苦労は薄かったかもしれない。

 元レスリング五輪代表からプロレス入りしたマサ斎藤、ジャンボ鶴田、長州力らは大成功の部類と言えようが、こちらはプロや社会人の経験がないぶん、相撲などからの転向組よりなじみやすかっただろう。

 純然たる他競技のプロから転向して成功を収めた日本人レスラーとなると、まずはプロ野球出身のジャイアント馬場、そして大相撲出身の天龍源一郎の2人になるだろう。

「故障のため野球を諦めた馬場に比べると、天龍は前頭筆頭まで番付を上げた現役力士。所属部屋の分裂騒動により角界に嫌気が差していたとはいえ、当時は今以上に力士の社会的地位が高かっただけに、プロレス入りへの葛藤は大きかったでしょう」(同)

 1976年、26歳にして全日本プロレス入団を決めた天龍は、すぐに渡米してザ・ファンクスのもとで修行生活に入る。

 付き人のいた幕内力士時代から一転しての新弟子生活で、その落差は相当のものであったに違いない。

★アメプロに学び自分流に再構築

 帰国しての日本デビュー後も、相撲の短時間勝負に慣れた体はスタミナ不足を露呈することもしばしばであった。

 期待の大型新人として迎えられながら、実際には馬場、鶴田はおろか、当時在籍したタイガー戸口にも及ばない扱い。並みの選手ならここで心折れても仕方のないところだが、しかし、天龍は違った。

 ’80年前後に再修行のため渡米すると、これが転機となり、一気に鶴田のライバルの座までのぼり詰めてみせたのだ。

「何が変わったのかと言えば、2度目の渡米で各地を転戦する内、いわゆるアメプロ式の試合づくりや観客へのアピール法を身に着けたこと。純和風のいかつい外見や相撲由来の技などからは分かり難いのですが、そのベースがアメプロにあることは、天龍自身も語っているところです」(同)

 しかも、単にアメプロの様式を真似るだけでなく、自分なりに解釈した上で再構築してみせたのが、天龍の類いまれな能力だろう。
「天龍革命と呼ばれた闘争心むき出しの戦いぶりも、観客がそういうスタイルを求めているという“読み”があった上で、セルフプロデュースした面があったのではないか」(同)

 ’90年に東京ドームで行われた日米レスリングサミットにおいて、WWF(現WWE)のランディ・サベージとの試合が名勝負となったことは、当時、ファンのみならずマスコミにおいても驚きをもって伝えられたものだが、むしろ当然の結果であった。

 大相撲で幕内まで張った実績におごることなく、何事も貪欲なまでに受け入れる。そうした天龍のスタイルは、全日を離脱し、SWSに移籍以降もさらに発展していった。

 新日本プロレスの総帥たるアントニオ猪木、アメプロの頂点であるハルク・ホーガン、邪道の大仁田厚、女子プロ最強の神取忍、UWFの髙田延彦といった、まったく毛色の異なる相手といずれも好勝負を披露してみせたのは、世界中を見渡しても天龍にしかできない芸当である。

 65歳での引退試合、現役トップのオカダ・カズチカとの対戦までその姿勢を貫いた天龍は、まさしく“生ける伝説(リビングレジェンド)”と呼ばれるにふさわしい存在であった。

天龍源一郎
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PROFILE●1950年2月2日、福井県勝山出身。身長189㎝、体重120㎏。
得意技/パワーボム、逆水平チョップ、グーパンチ。

文・脇本深八(元スポーツ紙記者)

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