世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第328回 トリクルダウンという妄論

社会 週刊実話 2019年07月16日 07時03分

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第328回 トリクルダウンという妄論提供:週刊実話

 6月10日、安倍晋三総理大臣は、共産党の小池晃参議院議員の「大企業の法人税や、富裕層の所得税を引き上げ、財源を確保するべきではないか?」という質問に対し、「日本の経済自体が相当のダメージを受ける。経済は成長どころかマイナス成長になるかもしれない」と反対した。

 つまりは、安倍総理は大企業や富裕層に「減税」すれば、経済が成長すると信じていることになる。いわゆる、トリクルダウン理論である。

 MMT(現代貨幣理論)により、おカネのプールは存在しないという現実を理解すると、トリクルダウンが「妄論」であることが改めて理解できる。

 第326回で解説した通り、主流派経済学者は、経済を「自然現象」であると認識する。つまりは、自然科学と同じように、何らかの「神様が決めた法則」があると考えるのである。

 例えば、万有引力の法則が分かりやすい。万有引力とは、すべての物体は互いに引き合っており、引力の大きさは、引き合う物体の質量の積に比例し、距離の2乗に反比例するというものだ。この手の普遍的な法則を、経済学者は「経済」という分野において見つけ出そうと試みる。そして、必ず間違える。

 そもそも、経済とは不確実なのだ。何しろ、人間の営みである以上、自然科学同様に認識する時点でどうかしている。

 経済学で最も有名な「間違えた法則」が、セイの法則である。フランス人の経済学者ジャン=バティスト・セイが「思いついた(発見した、ではない)」法則もどきであるが、「総供給と総需要が常に一致する」とされている。

 つまりは、生産された財は、必ず買われるという話なのだが、実はセイの法則は「物々交換」を前提としていた。さらには、生産物が余れば価格が下がり、結局は購入されるという考え方になっているわけだが、1930年代にジョン・メイナード・ケインズにより否定されるまで、セイの法則は経済学の中心に鎮座していたのである。

 素人であっても、例を挙げれば、「いや、所得の一部が貯蓄に回ってしまえば、消費や投資に向かわないのだから、需要が不足することは普通にあり得るのでは?」といった反論を思いつけるのだが、セイの法則では「貯蓄は必ず投資に向かうため、需要不足はあり得ない」となっていた。

 ここで一つ、気が付かれたのではないだろうか。セイの法則は、「所得の一部が貯蓄として貯められ、そこから投資資金として支出される」というおカネのプール論が前提になっているのだ。

 現実の世界では、投資のための資金は「銀行が通帳に書く」ことで発行される。別に、人々の貯蓄が「ゼロ」であったとしても、銀行は借り手に「銀行預金」というおカネを書くことで、融通することができるのだ。というよりも、実際にしている。

 さて、トリクルダウン「妄論」である。トリクルダウンとは、具体的に「富裕層や大企業に所得を多く残すと、それが投資として滴り落ち(トリクルダウン)、国民経済が成長する」という理屈になっている。つまりは、減税政策で富裕層や大企業に「残った所得=貯蓄」から、投資資金が融通されるという考え方になっているのだ。

 MMTやおカネのプール論の間違いを知らない一般人は、
「富裕層や大企業におカネをたくさん残し、おカネのプールが溢れれば、彼らが投資をしてくれるから、経済は成長するのでは?」

 と、考えてしまうだろう。実にもっともらしいのだが、残念なことに富裕層や大企業の貯蓄と、成長のための投資は、何の関係もない。何しろ、おカネのプールは存在しておらず、投資のための資金は「銀行が通帳に書く」だけで調達可能なのだ。

 現実世界において、課税強化で富裕層や大企業の貯蓄が激減したとしても、「投資資金」は普通に銀行から貸し出される。何しろ、銀行が書くだけだ。

 いまだに「いや、銀行はどこかからおカネを調達し、借り手にまた貸ししているだけだ」と信じている読者は多いかもしれないが、我々が市中銀行から借り入れるおカネ「銀行預金」は、銀行側にとっては「負債」になるのだ。実際、市中銀行の貸借対照表(バランスシート)を見ると、銀行預金は貸方に負債計上されている。自らの負債となるおカネを、いかにして「調達」するのか。もちろん、不可能である。

 さらに、現実に安倍政権は大企業に有利な税制措置を取り、企業の現預金は積み上がり続けた。図の通り、直近の企業の現預金額は、2012年末と比較すると何と80兆円も増加した。

 無論、企業は銀行からの借入に頼らず、自らの貯蓄(現預金)で投資資金を賄っても構わないわけだが、現実は図の通りなのだ。企業は第二次安倍政権発足以降、ひたすら貯蓄(現預金)を積み上げているわけだが、それにも関わらず国内投資は一向に増えず、日本経済は低迷を続けている。

 なぜなのだろうか。もちろん、デフレが継続し、国内の投資機会が乏しいためだ。国内のデフレを解決せず、ひたすら大企業有利な税制措置を進めた結果、増えたのは株主への配当金、株価を吊り上げるための自社株買い、そして企業の貯蓄たる現預金だけだった。これが、安倍政権の成績表なのである。

 整理すると、トリクルダウン理論は「理論」ではなく「妄論」である。
(1)そもそも、銀行は資産がゼロだったとしても、投資のための資金を貸し付けることができる。
(2)デフレで投資しても儲からない状況では、企業の現預金が積み上がったとしても投資拡大や経済成長はもたらされない。

 前記が事実であるにも関わらず、なおもトリクルダウン的な政策に固執する場合、安倍政権は単純に「大企業や富裕層を優遇し、負担を国民に押し付ける」政権であると断定せざるを得ない。何しろ、安倍政権は2014年に「消費税増税+法人税減税」を強行した政権なのである。言い訳はできまい。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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