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熱き侍たちが躍動!! メジャーリーグ Times ヤンキース田中将大の現状と今後の展望

 ヤンキースのエース田中将大が危機的状況に陥っている。5月14日のアストロズ戦で2回途中までに8失点してKOされ、さらに、20日のレイズ戦でも3回までに7失点して降板したのだ。その結果、防御率は6.56まで上昇。これはメジャーの規定投球回数に達している107投手の中で102位となる数字だ。
 大量失点の最大の要因は、一番の武器であるスプリッターが落ちなくなり、浮いたところで一発を食うケースが頻発したからだ。それでも、右打者に対する武器のスライダーが機能していれば何とかしのげるが、これもストライクゾーンからボールゾーンに外れる軌道に制球できず、抜けて痛打されるケースが多くなった。
 この2つの武器が機能しなくなった原因は特定されていない。米国のアナリストやプロスカウト(他球団の選手を評価するスカウト)の多くは、投げる時、左肩が早く開くのが原因と指摘する。さらに、ヤ軍のロスチャイルド投手コーチは、田中が研究熱心なあまり、投球フォームに過剰な修正を加え、本来の姿を見失ったのが原因と見ている。

 田中の突然の大乱調をいちばん深刻に受け止めているのはジラーディ監督だ。同監督は冷静沈着な知将として知られる。だが、2試合連続でKOされた20日のレイズ戦では田中に対するフラストレーションが主審に対する激しい抗議という形で表れてしまい、意固地になって審判に食ってかかった結果、退場処分を受けた。
 同監督が現在頭を痛めているのは、田中が早い回にKOされるようになったことでリリーフ陣の酷使に拍車がかかり、故障者が続出する恐れが出てきたことだ。
 ヤンキースのローテは1番手田中将大、2番手サバシア、3番手ピネダ、4番手セベリーノ、5番手モンゴメリーという布陣。しかし、2番手以降はスタミナに問題がある投手や中盤に球威が落ちる投手が揃っている。監督は6回の頭、ないし6回の途中からリリーフ投手を登板させるケースが多く、そのため、ゲーム終了までにつぎ込むリリーフ投手は3人ないし4人になり、今季、ヤ軍リリーフ陣の登板数は異常に多くなっている。田中が早い回にKOされることが続けばリリーフ陣の出番がさらに増え、故障者が続出するのは確実だ。ゆえに、ジラーディ監督は田中の乱調を苦々しい思いで見ているのだ。

 今後考えられるのは、以下の3つのシナリオだ。
 (1)自分で修正点を見い出して復調し、またエースとして機能するようになる。
 (2)スプリッターとスライダーが機能しない状態が続き、6月に入っても防御率が5点台に停滞。しばらくDL入りして投球フォームのオーバーホールを行い、シーズン後半の活躍を期す。
 (3)何らかの故障が乱調の原因になっていることが判明し、長期間DL入りする事態となる。古傷であるヒジの靭帯に損傷が見られる場合は根本的な治療が必要になるので、トミージョン手術が不可避となる。
 この3つのシナリオの中で可能性が高いのは(1)である。(2)のシナリオが現実のものになる可能性は2割ないし3割程度で、(3)のシナリオになる可能性はさらに低い。昨年までは、田中が不調になると米国のスポーツメディアはヒジの状態が悪いのではないかと勘繰っていたが、今回は乱調とヒジの故障を関連付けて報じているメディアはほとんどない。速球のスピードが、前年より1、2キロ上昇しているからだ。

 今季開幕時、田中将大はサイヤング賞候補の5、6番手に名が挙がっていたが、今回の大乱調でその可能性は完全になくなった。同賞を受賞するには最低でもシーズン終了までに防御率を2点台にキープする必要があるが、それを実現するには、これから登板する22ないし23試合を防御率1.80前後で行く必要がある。これは実現不可能な数字と言える。
 現実的に考えれば、田中は今季終了までに防御率を3点台にすることが精一杯だろう。なぜなら、今後登板する22、23試合の登板を防御率3.10に収めても、シーズン防御率は4.00をかろうじて切るレベルにしかならないからだ。
 しかし、最多勝の望みは多少残っている。ヤンキースは、今季、スケールの大きい若手の台頭で得点力が格段にアップ。先発投手はそこそこのピッチングを見せれば勝ち星が付くようになった。田中は今後登板する22、23試合を防御率3.00前後で乗り切れば15勝前後はできるだろう。そうなればシーズンの勝利数は20の大台に乗り最多勝投手になる可能性が高くなる。米国では勝ち星が重視されないので4.00前後の防御率で20勝しても評価されない。しかし、日本では依然、勝ち星に価値を置く人が多いので、日本のマー君ファンは大いに沸くだろう。これからシーズン終了までの4カ月間は、勝ち星にこだわったピッチングを期待したい。

スポーツジャーナリスト・友成那智(ともなり・なち)
今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は大リーグ関連の記事を各媒体に寄稿。日本人大リーガーにも愛読者が多い「メジャーリーグ選手名鑑2017」(廣済堂出版)が発売中。

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