道尾 一言で言えば、この10年間の「集大成」です。この10年間、年に2、3冊のペースで本を書いてきた経験の他に、さまざまな人と付き合う中で身に付けたものや、これまでに知らなかった感情など、新しく知ったことを全て詰め込んだつもりです。
−−主人公はラジオパーソナリティーです。普段からよく聞くんですか?
道尾 ラジオは大好きで、伊集院光さんの番組を偏愛しています(笑)。ラジオ好きだからこそ、主人公をパーソナリティーに設定しようと考えましたが、伊集院さんを意識すると、どうしても口癖などが似てしまうので、容姿から性格に至るまでまるっきり違う人物を主人公に設定しました。
また今作では、ラジオの一番の特徴である“声は聴こえるけど姿は見えない”ことを使った仕掛けを随所に散りばめ、そのメリットを存分に生かせるようなストーリーや世界観を考えました。またアクションシーンも加えたんです。
ラジオ番組の放送シーンの描写では、読者の方が本を読んでいるのではなく、実際に番組を聴いているように、また、アクションシーンでは、まるで見ているように感じてもらえる書き方を試みたので、そのあたりを堪能してもらえるとうれしいですね。
−−初めて読者のために書いたとのことですが、こんな人に読んでほしいというのはありますか?
道尾 これまでは、人それぞれの好みがあるので、原稿を読み返したときに、自分自身が感動することだけを条件に書いていたんです。ただ、今作は老若男女全ての人に向けて書いたので、最後まで読むと自分の人生と関わっている本だと思ってもらえると思います。
あえてどんな人かで言えば、人間の弱さがテーマになっているので、自分の中の弱さを感じている人に特に読んでいただければと思います。というのも、私自身、作家になってからインタビューを受けたときに、ずっと意図的に虚勢を張ってきました。それは自分を先に追い込んでからでないと、頑張りきれる自信がなかったからなんです。でも、最近になってやっと自分の自信のなさを肯定できるようになりました。虚勢を張らなくとも、自分と向き合って必要な努力ができるようになったからなんです。
−−今回のインタビューは、これまでと違う印象を受ける読者もいそうですね。
道尾 偉そうなことも言ってないですし、すごく素直だと思います(笑)。
(聞き手:本多カツヒロ)
道尾秀介(みちお しゅうすけ)
1975年、兵庫県生まれ。2004年『背の眼』で第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞し、翌年同作でデビュー。『向日葵の咲かない夏』『月と蟹』など著作多数。