この調査では、富裕層をHNWI(ハイ・ネット・ワース・インディビデュアル)という概念でとらえている。これは、100万ドル(1億1000万円)以上の投資可能な資産を持つ者のことだ。
投資可能資産の中には、自宅不動産や消費財などの非投資資産は含まない。純粋に右から左に動かせるカネを1億1000万円以上持っている億万長者がHNWIなのだ。
このHNWIの数は、2017年には世界全体で1810万人だった。前年と比べて9.5%増えた。そしてHNWIが保有する投資資産は、70兆ドル(7700兆円)、日本のGDPの14倍もの投資可能資産が、富裕層によって保有されているのだ。
注目は、日本の位置づけだ。HNWIは、米国人が528.5万人と最も多いが、それに次ぐのが日本人で316.2万人もいるのだ。しかも、その数は前年と比べて9.4%も増えている。
日本人HNWIが保有する投資資産は847兆円、1人当たり平均で2億6800万円になる。これだけ莫大な投資資産を持つ日本人が急増し、いまや300万人以上に達しているというのが、今の日本の真の姿なのだ。
日本のGDPが世界に占める割合は6%だ。ところが、日本のHNWIの人数が世界に占める割合は17%に及んでいる。つまり、日本は世界に冠たる億万長者大国と言える。
サラリーマンの生涯賃金が2億円と言われる世の中で、これだけの資産を働きながら作れるはずがない。いったい、何が起きているのか。
そのヒントは、所得分配にある。安倍政権が発足して5年間で、実質GDPは7%増えている。経済のパイは大きくなっているのだ。ところが、実質賃金は4%下がっている。つまり、成長の成果を富裕層が独占しているどころか、成長の成果以上に、富裕層が庶民の所得を奪う形で一層金持ちになっているのだ。
こうした現象が起きれば、普通だったら庶民の怒りは爆発する。現に、いま世界では、左翼の台頭が著しい。例えば、米国民主党の大統領候補選挙で、金持ち批判を繰り返したサンダース候補は、クリントン候補をギリギリまで追い詰めた。
イギリスでは、コービンが労働党党首となり、次期首相候補だ。フランスでも、左翼党のメランションが支持を拡大している。ところが日本だけ、左派が消滅の危機に立つほど勢力を減らしているのだ。
こうしたことが起きている一つの原因は、億万長者が存在感を消すのがうまいからだろう。日本の世帯数は、5340万だ。ということは、17世帯に1世帯は、HNWIだということになる。つまり、身の回りにHNWIがたくさんいるはずなのだ。ところが、読者はどれだけHNWIを知っているだろうか。
日本のHNWIは、そっと息を殺している。そして、気づかないうちに庶民の所得を吸い取っていく。草むらに潜み、ヒトの血を吸うヒルのような存在が増えているのだ。