銀行口座の特定依頼は、帝国データバンク(東京・港区)や東京商工リサーチ(東京・千代田区)といった大手調査会社に依頼しても「コンプライアンス違反だ」と言われ一蹴される依頼内容。しかし、相続問題や離婚トラブルといった個人的な話だけではなく、企業間でも資産の差し押さえをしたい場合など、銀行口座の特定は極めて重要な情報であり需要がある。その需要に応えているのが、“銀行口座を覗くことができる調査会社”なのだ。
本来、債権回収や離婚訴訟に備えた預貯金口座の調査は、依頼を受けた弁護士(弁護士会)が行う。弁護士職務活動を円滑に行うため、事実を調査することは弁護士法第23条の2で認められており、弁護士から依頼を受けた所属弁護士会が、金融機関等に情報開示を求めることができる。これを弁護士会照会といい、平成23年には全国で11万9283件もあった。
しかし、「法律上の報告義務があり、正当な理由がない限り回答を拒否できない」とはいえ、情報開示を求められた金融機関は「個人のプライバシー保護」や「守秘義務」の観点から開示に応じないというのが現状だ。そうなると、依頼者は時間も弁護士費用もかかった上に、預貯金口座の特定はできないという最悪の事態に遭遇する可能性が高い。時間がかかれば、債権回収はさらに難しくなり、また、離婚訴訟の場合は資産の流出が進んでしまうかもしれない。そこで依頼するのが、前述の調査会社だ。
ある調査会社のパンフレットによれば、「債権回収や離婚訴訟に備え、預貯金口座の特定を5万円から行います」とある。この手の調査会社は、「口座番号から預貯金口座残額を調べる」ものから「氏名・住所から預貯金口座の場所、残高を調べる」ものまで多くのメニューを取り揃え、顧客のニーズに応えている。
もちろん、弁護士に対して情報開示しない金融機関が調査会社に対して開示する訳がない。調査会社がどこからその口座情報を得るのか。そのルートの一つが福祉事務所というわけだ。
前述の通り、福祉事務所には生活保護法の第29条による調査権がある。
「調査対象者が生活保護を申請したことにすれば、まったく問題ありません。福祉事務所長宛の財産調査の同意書があれば金融機関に断られることはありませんから」と関係者は言う。もちろん書類を偽造しているわけで、当然、文書偽造罪に該当するのだが、発覚するリスクが低く、万が一発覚しても軽い罪にしかならない。それで1件5万円であれば割に合うということだろうか。
不正を正すための法整備が、恐ろしいことに個人情報のダダ漏れを手助けしかねない。厚労省は一括照会を金融機関に打診する前に、福祉事務所の権限強化によって、違った犯罪が助長される可能性があることこそ、オープンにすべきなのだ。