WHOによる「フェーズ4」の発令は、すなわち、人から人へ感染する新型インフルエンザの誕生を意味する。つまり、爆発的な感染拡大につながる可能性をも示唆するものだ。この状況に「鳥インフルエンザでなかったのが相当に痛い」と頭を抱えるのは厚生・医療分野に詳しいジャーナリスト。
「ここ数年、政府は新型インフルエンザ対策をそれなりにやってきた。しかし、備蓄したプレパンデミック(大流行前)ワクチンはほとんど効かないと見たほうがいい。新型インフルエンザ対策は大きく変更する必要があるが、もしこのままの勢いで豚インフルがパンデミックの事態を迎えたら、政府にできることは少ないはず」
政府は、鳥インフルエンザ「H5N1型」由来の新型インフルエンザでパンデミックが発生した場合、日本でも3200万人が罹患し、最大で64万人が死亡する可能性があると想定。「H5N1型」に対するワクチンの製造・備蓄を進めてきた。しかし、このワクチンもH5N1型以外のウイルスには無効とされる。「今回の豚インフルは、政府にとって、まさにその『想定外の事態』になってしまった」(同)
ウイルスの型が違っても、ある程度は効果が見込めるとされてきたのがタミフル等の抗インフルエンザ薬。政府はこの備蓄も進めてきたが、「近年、タミフルの効かないウイルスが現れて信頼が揺らいでいた上に、豚インフルエンザにどの程度効くのか不安視する声もある。仮に効果が望めるとしても、日本の備蓄は3380万人分しかなく、日本人全員に配るにはほど遠い」(同)という状態だ。
そう、日本の新型インフルエンザ対策はそもそも遅れていた。それは医療現場の対応にも顕著に表れている。
文科省による昨年12月1日時点の調査では、国公私立大学病院のうち、新型インフルエンザに特化したマニュアルを作成しているのは全国140病院のうち44%となる61病院にとどまっていた。新型インフルに絞ったマニュアルを作成していないのは18病院。61病院は「整備中」と回答した。作成済みは、国立が43病院のうち32病院、公立は11病院中、3病院で、私立に至っては86病院中、たったの26病院だった。
もっとも、発生早期では感染症指定医療機関や結核病床を持つ病院が治療にあたる予定。患者数が急速に拡大、日本全土にまん延した段階で、地域の拠点病院となる大学病院も診療を行うことが想定されるが、「このお粗末さでは満足な診療が行われるとは到底思えない」(医療関係者)との指摘も。
これまでの状況や関係者らの話を総合して考えると、日本では鳥インフル由来の新型インフルエンザにさえ満足に対策が整っていなかった状況。その上で豚インフル由来のウイルスへの対策を取るとなると、抜本的なやり直しが必要となるが、それは今からではとても間に合わない、という悲しい結論が出る。
前出・ジャーナリストは「こんな状態では、これまでの政府見通しである『日本全国で最大64万人の死者』という数値も上方修正する必要があるかもしれない」と警鐘を鳴らしている。