そんな中、ここ10年で売り上げを4割も減らしているNECが取り組んでいる新たな組織改編が、世間の耳目を集めている。
NECと言えば、1980年から15年近くも社長を務めた関本忠弘氏の時代に、電電公社(現NTT)の下請け企業からコンピューターや半導体などを手掛ける総合電機メーカーに変貌し、『PC-9800シリーズ』で約50%のシェアを握って国内PC市場を席巻、半導体生産でも世界一になるなど、日本を代表するエレクトロニクス企業として君臨してきた。2001年には、世界初の折り畳み型携帯電話機を商品化し、iモード対応機種が大ヒットして国内出荷台数でトップに立ったこともある。
しかし、ここ数年は世界経済の変動、韓国・中国企業の台頭に苦しみ、効率化を追い求めた揚げ句、事業の統合と切り離しを繰り返すばかりの“黒歴史”と化していた。'09年度は携帯端末シェアでシャープ、パナソニック、富士通に次ぐ4位に甘んじ、事業をカシオ計算機、日立製作所と統合。'11年7月に中国系PCメーカーであるレノボと合弁会社を設立して個人向けPCを移管した際には、実質PC事業からの撤退と評された。また、日立との合弁会社エルピーダメモリにDRAM事業を移管したのに続き、かつては世界トップクラスだった半導体事業も本体から切り離してNECエレクトロニクス(現ルネサスエレクトロニクス)に移したことで、「一体何を売る会社なのか」(市場関係者)と陰口されるまでになっていた。
「先ごろ発表された昨年度の決算報告内容は減収減益でした。現在、NECが主力事業としているシステム開発業界は、マイナンバー関連の案件による活況が続いているとみられていたため、周辺からは驚きと先行きに対する不安も伝わりました。そんな周囲の声を払拭するべく、同時に発表されたのが2019年3月期を最終年度とした中期経営計画。かじを切るのは、この4月に新社長に就任した新野隆社長です。新野社長がこの中計のポイントとして成長戦略とともに掲げたのが『10万人を擁するNECグループの全体最適化を進めるための組織改編』なのです」(NECウオッチャー)
先に述べたように、NECの組織改編といえば事業の切り離し、あるいはスリム化だったのだが、今回は従来と一線を画している。スタッフ部門をはじめとしたグループ内部の組織改革を推し進めていくのが特徴で、1年以上前から本格稼働に向け準備を進めていた。具体的には本社の管理部門および事業部門のスタッフ業務の大半を、昨年4月に設立した新会社『NECマネジメントパートナー』に出向という形で随時集約している。
「この組織改編は、米国のゼネラル・エレクトリック(GE)が実践している『シックスシグマ』をベンチマークとしています。この手法は、プロジェクトチームを立ち上げ、さまざまな社内の課題を解決するもの。90年代後半にGEが全世界の拠点にほぼ一斉導入して大きな財務成果を出しました。業務プロセスに潜む真の問題点を発見、改善することによって生産性を高めたり、顧客窓口の対応を迅速にしたり、あるいは営業活動の確度を高めたりします。結果を定量化して社員を評価していくとしており、経営サイドは意欲満々です」(同ウオッチャー)
しかし、「毎日がリストラ」などと揶揄されるこの欧米型ノウハウに対し、現場からは多くの不満が漏れているという。社員の1人がひっそりと語る。
「はっきり言って、この組織改編は失敗。各部門の半分を出向、半分はそのまま残すという体制をとったのが原因です。社員証2枚、複数のIDを持ったりして、それを使い分けなくちゃいけない。もう何がなんだか分からない状態。すでに出向した社員が元の組織に戻るといった混乱も発生しています」
今回の組織改編に危機感を抱いているのは社員だけではない。同社のOBも憂慮している。
「NECは、ここ数年続いたお家騒動などに嫌気が差して多くの優秀な人材が流出してしまった。組織の改編は目先の利益だけにとらわれている気がする。うまくいかなければ、さらなる人材流出の引き金になりかねない」
近年まれにみる規模の改編に踏み切ったNEC。急激に変化する世界の荒波に翻弄され続ける国内企業の成功事例となれるのか、今後の動向が注目される。