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やくみつるの「シネマ小言主義」 誰も他人ごとじゃない、老親との「別れ」方『長いお別れ』

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提供:週刊実話

 久しぶりに家族で集まった日、告げられたのは厳格な父が認知症になったという事実。ゆっくりと記憶を失っていく父との、「長いお別れ」をしていく7年間を描いた作品。見終わった感想を一言で言うと「胸が痛かった」。

 今、親の介護などの渦中におられる方も、まだまだ…という方も、自分には関係ないと素通りできない映画です。とくに、今は親も達者だし、自分自身も若くて健康だという方。これが、いずれ降りかかってくる問題だということは、なかなか認識できないかもしれません。「ああ、気の毒な家族の映画なんだなぁ」なんて思っていると、じきに自分ごとになっちゃいますから。

 かく言う私自身に、もうちょっと早くに認知症や介護をテーマとする映画なり、原作となる書籍なりに触れておけばよかったという後悔があるからです。自分の両親はすでに他界してしまったのですが、もっと前に、こういった映画を見ておれば、違った対処ができたのはないのかと、あらためて悔いることしきりです。だからこそ、まだまだ…の方もこういった作品を見て、記憶のどこかに置いておいた方がいいと思うのです。

 介護を完全に満足いくまでできた人なんているはずがない。経験者なら、必ずや持っている悔いの種に、このストーリーは響いてきて、誰も素通りできやしません。

 そして、親のことだと思っているうちに自分自身にも老いは確実に迫っています。この映画を見て学習したつもりでも、自分自身に認知症の兆候が現れてきたら、果たして受け入れられるだろうか。いや、絶対抗ってしまうに違いない…と、身につまされるわけです。

 亡くなった自分の父親も、晩年に発症しました。まだ初期だったので、すべてを忘れてしまわないうちに、強く記憶として留めてもらおうと、初めて両親を連れてカナダに行き、ナイアガラの滝などを一緒に巡りました。そうしたら、ひと月後に脳溢血でポックリ逝ってしまった。73歳でした。親戚の人は「ちょっと早かったけど、よかったんじゃないか」と言ってくれたし、正直、自分もどこかで胸をなで下ろしていました。

 かたやこの映画では、母娘は変わっていく父親を厄介だとも思わず、「生きている限り、生きていてほしい」と「長いお別れ」の月日を全うしようとします。ここでまた、自分を責めてしまうんですよねぇ。

 しかし、この映画、普遍的に見えて、相当にラッキーなケースだとも言えます。うちのおカンは松原智恵子とは似ても似つかない。こんなにかいがいしく世話してくれる蒼井優みたいな娘もいない。やっぱり、特別に幸せなレアケースですよ。

画像提供元:(c)2019『長いお別れ』製作委員会 ©中島京子/文藝春秋

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■長いお別れ
監督/中野量太 出演/蒼井優、竹内結子、松原智恵子、山﨑努、北村有起哉、中村倫也、杉田雷麟、蒲田優惟人 配給/アスミック・エース 5月31日(金)全国ロードショー。
■父、昇平の70歳の誕生日。久しぶりに帰省した娘たちに母から告げられたのは、厳格な父が認知症になったという事実だった。夢も恋愛もうまくいかず悩んでいる二女の芙美と、夫の転勤で息子とアメリカに移り住み、慣れない生活に戸惑っている長女の麻里。それぞれの人生の岐路に立たされている姉妹は、思いもよらない出来事の連続に驚きながらも、変わらない父の愛情に気付き、前に進んでいく。ゆっくり記憶を失っていく父との7年間の末に、家族が選んだ新しい未来とは――。

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やくみつる:漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。『情報ライブ ミヤネ屋」(日本テレビ系)、『みんなのニュース』(フジテレビ系)レギュラー出演中。

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