『大須演芸場』が開場したのは、1962年。中京地区唯一の演芸場として、東京や大阪の芸人からも一目置かれる名門劇場だった。
「ここ数年は、観客の減少から経営難に陥り、何度となく閉鎖が噂されていましたが、それを乗り越えてきたのは、足立秀夫席亭の興行師としての意地と地元の支援。しかし、それもついに限界にきたということです」(演芸ライター)
初日の2月1日、場内は名門演芸場との別れを惜しむ観客で超満員。空席待ちの人々が劇場前から表通りまで長蛇の列を作り、これには出演の芸人たちも大興奮だった。
「故郷みたいな劇場ですから、閉鎖は本当に残念。でもね、大須でこんな光景は見たことありませんよ」(ジャグリング漫才の、あおき三朝うたこ)
「閉鎖の発表があった年末からこっち、閉館ミクスというか閉鎖バブルというか、すごいですよね。お客様と一対一という日もあったのに…」(女流講談師の古池鱗林)
公演は、建物引き渡しが予定されている2月3日午後、強制執行のギリギリまで行われた。大盛況と混乱のうちに幕を下ろした名門劇場。足立秀夫席亭は、現在の心境をこう語る。
「閉めてたまるかの思いでここまでやってきた。債権者と裁判所の無慈悲なやり方には、今でもはらわたが煮えくりかえる。でもな、今の芸人や興行師の気質の変わりようを見ていると、今が潮時かな、とも思うんだわ」
閉館後の建物の使用については現段階では未定。足立席亭は、今後も『大須演芸場』の名で芸人を率い、近隣を営業でまわる予定だという。
昭和の雰囲気を残す、昔ながらの演芸場がまた一つ消えた。