『アウトサイダー』(上・下)
(コリン・ウィルソン/中村保男=訳 中公文庫 上781円・下838円(本体価格)
必読の書、というものがある。取り立てて流行中ではなく、かなり以前に書かれたものであっても読めば人生観が変わる、という類いの本だ。そういう必読の書の一つにコリン・ウィルソン『アウトサイダー』がある。本国イギリスでの刊行は1956年だが、邦訳版は今も読むことができる。この中公文庫版でさらに多くの方に読んでいただきたい、と切に思う。
今、私たちは幼稚な文化に浸り過ぎではなかろうか。アニメ、アイドル、ゆるキャラ。そういうほんわかした世界に何となく接して、刹那的に幸せな気分になっている。しかし、それはまさしく刹那的な時間であって、人生の問題を根本から解決しているわけではない。人は皆、孤独である。独りで生まれ、独りで死ぬ。その事実を十分に知るためには、この『アウトサイダー』を読むのが最適だ。
本書は小説ではなく評論だが、とてもクリエーティブな内容だ。ヘミングウェイ、ドストエフスキーの小説に登場する人物、あるいはゴッホのような実在の表現者を評しながら、人間全般が抱えている孤独感へ迫っていく。
先日までレイモンド・チャンドラー原作のドラマ『ロング・グッドバイ』がNHKで放映されていた。もともとはもちろんアメリカを舞台にした、フィリップ・マーロウという私立探偵を主人公にした物語なのだが、設定を日本に置き換え、見事なハードボイルド・ストーリーに仕上げていた。
こういう大人の鑑賞に値するドラマを観つつ、本書もぜひ読んでいただきたい。コリン・ウィルソンは50年代にイギリスで登場した《怒れる若者たち》ムーヴメント集団の一人と評されているのだけれど、実は大人っぽい書き方をしている。幼稚でほんわかした、表面だけの和みに反逆する精神は今も鮮烈で、子供っぽいようで大人らしい。
(中辻理夫/文芸評論家)
【昇天の1冊】
海外旅行に行くとなれば、下調べやネットでクチコミを読むなど念入りにした上で、現地で女を調達−−。そんな男性は、今も珍しくない。実際、その情報収集のための雑誌もある。『アジアン王』(マイウェイ出版/600円)がそれだ。「アジアを遊び尽くそう」というキャッチフレーズ通り、タイ、フィリピンからマレーシア、インドネシアに至るまで、夜の歓楽街の案内とレポートが満載である
情報をカバーするエリアはアジアにとどまらない。W杯を間近に控えたせいだろう、特集はブラジルの「肉食系美女」。読者の体験談や現地レポーターたちの実践風俗ルポなど、そのスジの遊びに目がない好事家には格好の情報ツールとなっている。
中央アジアに位置するウズベキスタンの記事もあり、珍しいと思って目を通してみる。この国の人たちは、青い目をしたアジア人といわれ、エキゾチックな容姿にソソられるそうだ。サマルカンドという都市では、日本でいうところの“ホテトル嬢”とのハッスルプレイは料金を自分で交渉するのが一般的など、同じ風俗でも文化の違いが読み取れ興味深い。
海外だけではなく、日本国内の韓国デリヘル、金髪風俗のインフォメーション・コーナーもあり。全国の新規オープン店をイチ早く誌面に紹介するなど、よくコレだけの情報を丹念に集められるものである。
LCCを使って格安に渡航する方法まで網羅。日本人の性欲は変わらず旺盛だと、あらためて感心させられる1冊だ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)