当初、レンジャーズは、ダルをド軍に放出する見返りに、ド軍からマイナーの最有望株ビューラー(先発投手)とバドゥーゴ(外野手)の2人を獲得することを希望していた。しかし、ド軍がそれを拒否したため、筆者はトレードが不成立に終わる可能性が高いとみていた(ド軍サイドも、一度は諦めムードに傾いていた)。
だが、レ軍側が最後の最後で、希望する交換要員のグレードを下げたため、7月31日に期限ぎりぎりのタイミングで、トレードが成立した。
メジャーリーグでは、ポストシーズン進出の可能性がなくなったチームが長期契約の最終年を迎えた大物選手を優勝争いするチームにトレードし、2、3年後、レギュラーに成長しそうな有望株数人を獲得することが多い。今回のダルのトレードも、典型的なそのケースと言っていい。
7月末トレードで動く大物は、シーズン終了後FA市場に出ることが決まっているため、「シーズン後半の優勝請負人」「ポストシーズンでの強力な助っ人」として動くケースが多い。ダルも「ポストシーズンでの強力な助っ人」としての移籍である。
ド軍はメジャー随一の金満球団で、先発投手の人材が豊富である。来期は5つある先発ローテーションの枠を9人の投手で争うことになる。そのため、ダルと長期契約を交わす可能性は低く、「3カ月限定移籍」になるとみられている。
ドジャースは前田健太を一時リリーフに回したほど先発投手が豊富だ。しかも、今季は驚異的な勝率で勝ち進んでおり、地区優勝も確実になっている。それでもあえてダルを獲得したのは、ワールドシリーズ制覇を見据えているからだ。
ド軍の先発投手陣は「トップレベル」の実力を備えた投手が2人(カーショウ、ウッド)と、「中の上レベル」の実力を備えた投手が4人(ヒル、マッカーシー、前田健太、柳賢振)という構成だ。今季、ペナントレースで驚異的なペースで勝利を収められているのは、「中の上」レベルの投手たちが、5、6回を2、3点に抑えれば、打線の得点力が高いため、ほとんどが白星になるからだ。
しかし、強いチーム同士がぶつかるポストシーズンでは、「中の上レベル」を先発させてもなかなか勝てない。強力な敵チームを圧倒するには、「トップレベル」の投手が2人ではなく3人必要になる。
昨年のリーグ優勝シリーズで、ド軍はトップレベルの先発投手3人を擁するカブスに完敗した。そこで今季はダルを獲得し、「トップレベル」の先発投手3人を揃えてポストシーズンを勝ち上がることにしたのだ。
今季のポストシーズンで、ド軍はまずダイヤモンドバックス対ロッキーズの勝者と対戦する。そのあと、ナショナルズ対カブスの勝者と対戦することになるが、どのチームも今季はトップレベルの先発投手が1人か2人という状態だ。
ダルの加入により、ド軍は先発投手の面で圧倒的な優位に立つことになったのだ。
ダルビッシュにとって、ドジャース移籍はプラス要素がたくさんある。
今季のダルは6回以上を自責点3以内に抑えるクオリティスタート(QS)が22試合に先発したうち15試合もあるのに、8月3日時点の勝敗は6勝(9敗)しかしていない。味方の得点援護が少ないためだ。
それに対し、QSが4つしかない前田健太は10勝(4敗)している。5回終了時点で降板することの多い前田に二桁も勝ち星があるのは、5回終了時点までに2、3点取られて降板しても、リリーフ陣が揃って好調のため、リードを守り切ってくれるからだ。
その点、レンジャーズはクローザーを固定できないほどリリーフ陣が弱体だった。
ダルにとって得点力が高く、かつリリーフ陣が強力なド軍で投げられることは、大きなプラスになる。
さらに、ダルは今季、レ軍の内野、外野陣のまずい守備にも再三にわたり足をすくわれてきた。
だが、ド軍は内外野ともに守備力も高い。特に外野陣の守備力はピカイチで、打球がフライになりやすいダルにとって大きな味方となるだろう。
捕手の面でも心配ない。ド軍の正捕手グランダルと第2捕手バーンズは、どちらも前田の女房役をやって日本人投手をリードするコツを掴んでいる。テキサスの球場は高温と乾燥で本塁打がたいへん出やすかったが、ドジャースタジアムは平均レベルなので、この点も有利に作用するだろう。
マイナス面として考えられるのは、中の上レベルの実力を備えた先発投手がひしめいていることだ。そのため、防御率が悪化すると、先発ローテを外される恐れがある。
スポーツジャーナリスト・友成那智(ともなり・なち)
今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は大リーグ関連の記事を各媒体に寄稿。日本人大リーガーにも愛読者が多い「メジャーリーグ選手名鑑2017」(廣済堂出版)が発売中。