一方、松井氏に近いメディア関係者によれば、それ以前に水面下で監督就任のオファーはあったものの、松井氏は球団にすでに断る意思を伝えていたという。
「当然です。3年前に原氏が退陣する際、次期監督の筆頭候補は松井氏でした。しかし、ヤンキースでの仕事が始まったばかりで辞退し、1歳年下の高橋氏に現役を引退させて監督に就任させた。それがいきなり解任され、後釜に自分が座るという選択を、道義にこだわる松井氏が選ぶはずがない。そこで松井氏は恩師・長嶋茂雄氏(82)の意を汲み、後任監督に中畑清氏を推したのです。3年間バトンを託し、その後に由伸氏が再登板するシナリオでした」
この経緯を見る限り、これまでの巨人なら、ミスターの「鶴の一声」で、ポスト高橋監督は中畑氏が本線となるはずだった。
しかし、7月に倒れた長嶋氏は、現在も入院中。球団サイドは「順調に回復中」と重病説の火消しに躍起だが、今なお予断を許さないという情報もあり、神通力の衰えは否定できないところ。同時に今回の監督人事は、読売グループの意思決定が渡邉恒雄読売新聞グループ本社代表取締役主筆(92)から山口壽一球団オーナー(61)にスイッチしつつあることも表している。
「現在の首脳は、人気回復の特効薬は江川卓氏(63)の投入以外にないと考えているそうです。アンチもいるが、興味は湧くと。巨人戦のテレビ視聴率が20%を超えたのは、江川氏が絶対的エースだった時代。その江川政権への布石が、今回の原第3次政権なのです」(ベテラン巨人担当記者)
山口オーナーは「フロントとチームが一体となっての立て直しが必要」と、原氏に「全権監督」を約束。過去2回とは異なり、今回はコーチ陣の編成でもらつ腕を振るうことになる。
この情報を裏付けるように、巨人は11日、鹿取義隆GM兼編成本部長の退任と岡崎郁スカウト部長の異動を発表。GMは原氏が実質を兼ね、スカウト部長は原氏の後輩で東海大出身の長谷川国利査定室長が兼任。
他方で、川相昌弘二軍監督が今季限りで退団し、OBの篠塚和典氏を起用するとも発表した。川相氏は'16年から三軍監督を2年務め、今季は二軍監督として4年連続イースタン優勝。だが、原氏が監督だった'15年、当時ヘッドコーチだった川相氏と意見が衝突し、今回はお役御免というわけだ。
では、誰が原第3次政権でヘッドコーチを務めるのか。ここに、特効薬・江川氏の名前が挙がる。助監督扱いで入閣させ、GM的な役割も託す方針という。
思い出されるのが、'11年オフに勃発した当時の球団代表による「清武の乱」だ。ヘッドコーチに江川氏を招聘しようとした渡邉会長(当時)に対し、すでに同ポストに岡崎コーチの留任が内定していたことから、清武英利GM(当時)が「コンプライアンス違反」などと批判。この江川ヘッド案は、実は当時の原監督が出した腹案だった。
「原氏が3度目の監督を引き受けたのは、この時の借りを江川氏に返す目的もあります。原、江川、篠塚の3氏は、藤田元司監督時代の“オトモダチ”。原・江川ファミリーにあらずんば抵抗勢力という時代に舞い戻った印象です。当時、対極に位置していたのが、中畑氏のグループでした」(スポーツ紙デスク)
実は、今回の巨人監督の人選で、本命候補だったのが江川氏だ。実現しなかったのは、指導者経験がまったくなかったから。そこで、原監督の下で2シーズンほど汗をかき、次の巨人監督に備えさせることに修正されたのだという。
「原・江川政権の誕生で、中畑氏の巨人復帰の可能性が消滅しました。それは中畑氏と連携する松井氏も無縁ではなく、この先も『松井巨人はない』ことを物語っています。中畑氏に近い球界関係者によれば、松井氏が将来的に巨人に戻る意思を明白にすれば、中畑氏が巨人監督に就き、川相氏をヘッドコーチに据える布陣も検討されていたというのですが」(同)
とはいえ、日本一3回、リーグ優勝5回という輝かしい実績を持つ原氏には、実子がクスリ疑惑で当局にマークされているという情報も伝わっている。読売新聞社が周辺も含めて身体検査した上で、監督復帰させたことは容易に推察できるが、まさかの事態はつきものだ。
原、江川氏とともに、黄金期を築いた巨人OBの野球解説者が、こう断言する。
「巨人が万が一に備え“中畑巨人”を想定しているのは事実。しかし、原氏が今回も成功し、首尾よく江川氏にバトンを渡すことになれば、その次は高橋監督の再登板や阿部慎之助がおり、松井氏の出番は消滅する」
いずれにしても、今回の政変で巨人OB会に「中畑、松井、由伸、川相」という大きな抵抗勢力ができた。主流派の「原、江川、篠塚」とのせめぎ合いは今後も続くが、失地回復は難しい。
揃って他球団に鞍替え…そんな声も囁かれている。