ライバルの米ゼネラルモーターズ(GM)が971万台、独フォルクスワーゲン(VW)が暫定値で970万台だったのに対し、トヨタはダイハツ工業、日野自動車を含むグループの世界販売台数が過去最高の998万台となり、“夢の1千万台”にはわずかに届かなかったものの、昨夏時点の計画996万台から2万台上ぶれという結果だった。
当然、今年も世界一を目指すことになるが、ライバルは北米や世界最大市場の中国での販売増をテコに猛然と追い上げており、大接戦は避けられない。市場関係者はエールを送りつつ、その『トヨタ王国』に三つの不吉な影が忍び寄っている点も指摘する。
第1が尖閣問題に象徴される中国のカントリーリスクだ。トヨタは昨年、中国で過去最高となる91万7500台を販売した。現地合弁会社2社分を含めた数字で、2012年に吹き荒れた反日デモの影響を払拭したかに見える。ところがVWは327万台を記録、GMを蹴落として9年ぶりに中国市場のトップを奪回した。GMにしても過去最高となる316万台を販売、トヨタに代表される日本勢との圧倒的な差を見せ付けた。
その中国でトヨタは今年、100万台を超える販売を見込んでいる。しかし、全てを売り切ったとしてもVWやGMの背中ははるかに遠い。まして“尖閣沖海戦”が勃発すればトヨタ車は格好の標的になって振り向きもされず、ライバル陣営が「好機到来」とホクソ笑むだけだ。結果、巨大市場で惨敗したトヨタが世界ナンバーワンの座から転落する図式が透けてくる。
第2の影はユーザーの軽自動車シフトが急速に進んでいることだ。業界団体の集計によると、昨年の国内新車販売台数は537万5513台で、うち軽自動車が211万2991台だった。
軽の市場シェアは前年比2.4ポイント増の39.3%に達し、今や市場の4割を占めるまでになったが、自社で軽を生産していないトヨタの国内シェアは前年比2.1ポイント減の29.4%まで低下している。グループにダイハツを擁するとはいえ、世間の目には「トヨタのジリ貧が始まった」と映る。
「来年4月から軽自動車税が3600円上がるため、軽各社は『今年は駆け込み需要が見込める』とソロバンをはじいている。4月の消費増税で早くも顧客離れが懸念される登録車(普通車)とは対照的で、トヨタのシェアがどこまで落ちるか、業界ではひそかな関心を呼んでいます」(ディーラー関係者)
その消費増税はトヨタにとって悩ましい問題だ。王国を揺るがす第3の影で、税率が5%から8%に引き上げられれば販売を直撃、同社が唱えてきた「国内生産300万台」体制に“赤信号”が点滅しかねないのだ。
実際、1997年4月に消費税が3%から5%に引き上げられると、トヨタの国内生産は前年を33万台下回った。その教訓から同社は今年度の国内生産を、前年比20万台減の310万台と見込んでいる(世界生産は18万台増の1030万台)。辛うじて国内生産300万台体制を死守しようとの計画だが、トヨタウオッチャーは「お手並み拝見」と冷ややかだ。
「トヨタが『国内300万台』に固執するのは、グループ企業を含めた雇用を守るためですが、これは結果的に海外生産シフトを遅らせ、人件費高騰などコスト高を招く。今年の見込みでもトヨタの国内生産比率が3割に達するのに対し、日産やホンダは既に2割ギリギリまで下げている。高まる電気料金、材料費の高騰などを考慮すれば“死守”を唱えること自体が、時代錯誤と非難されて当然なのです」
だが世間の目にどう映ろうと、豊田章男社長は“家訓”の死守に躍起である。何が御曹司を駆り立てるのか。ウオッチャーが続ける。
「昔かたぎというのか、雇用維持のためには不可欠と信じて疑わないのです。下手に忠告でもすれば、殿の逆鱗に触れる。周囲はイエスマンばかりで、まさに“裸の王様”を彷彿とさせているのです」
実はトヨタも過去2回、300万台生産を割り込んでいる。リーマン・ショック直後の'09年(279万台)と、東日本大震災があった'11年(276万台)で、特例とはいえ、この事実を御曹司が知らないわけはない。
「本人は『これが指揮官の務め。タガは緩められない』と思っているのでしょうが、消費増税で市場回復が遅れれば高コスト体質が一気に表面化する。そうなったら世界一の勲章など見向きもされません」(証券アナリスト)
トヨタ王国に急浮上した三つの“死角”−中国リスク、軽シフト、消費増税−これらをどう克服するか、あらためて御曹司の力量が問われそうだ。