「フィアットはスズキとVWの間にクサビを打ち込むべく、スズキにディーゼルエンジン供給を持ちかけたのです。これにスズキが飛びついたから、さあ大変。フィアットがもくろんだように、これでスズキとVWの関係は決定的に悪化したのです」
さすが、情熱家にして策略家として知られるマルキオンネCEOの面目躍如というしかない。皮肉なことに、そんな青い目トップのさもしい魂胆を後押しするかのように、スズキの株価はパッとせず、逆に株の買いあさりには格好の追い風が吹いているのだ。
「インド暴動の傷が癒えないせいもありますが、株価が冴えない最大の理由は、国内軽市場でダイハツに抜かれて2位に落ちたうえ、3位のホンダの猛烈な追い上げにあっていること。ところが、スズキの経営陣からは危機感とは裏腹に、お家騒動の火種が漏れてくるのだから尋常ではありません」(大手証券マン)
実際、スズキの鈴木修会長兼社長は9月6日、都内で開いた軽自動車『ワゴンR』の発表会見で「うかうかしていたら3位や4位に転落してしまう」と語気を強めた。今年1〜8月の軽シェアが前年同期比2.5ポイント減の29.2%と、初めて3割を下回った(昨年度は30.5%)のだから無理もない。
「スズキがダイハツの後塵を拝し、他社の追い上げに悲鳴を上げる最大の理由は『台数よりも収益確保』を前面に出したからです。自社登録(ディーラーが自分の会社名義で登録すること)の手法を駆使すれば台数は伸びる反面、収益に寄与しないとの反省からで、この指揮を執ったのは田村実副社長。会見当日、意図的に鈴木会長をいら立たせる質問を浴びせるように仕向けることで田村副社長を失脚させようと画策したとの怪説や、田村副社長サイドがインド問題で鈴木会長の責任を問おうとしているなどという、耳目を疑うおどろおどろしい話もうわさになっている。これでは株価回復など望むべくもありません」(前出・証券マン)
一方、マツダの山内孝社長は、かたくなにフィアットのラブコールを無視し続けたいのか、この期に及んでも同社との資本提携交渉を否定している。それとどうつながるのか、マツダ関係者は米フォードが来年早々にも打ち出す新体制に注目する。マツダで社長を務めた経験があるマーク・フィールズ上級副社長が「次期社長として事実上内定した」というのだ。
「フォードが再びマツダの後ろ盾となる布石なのか、それとも野心満々なフィアットに対し『好きなようにさせないぞ』と牽制する狙いなのか。もし後者ならばフィアットはスズキ攻略に全力投球するでしょう」
そんなマツダ関係者の見立て通りになるか、自動車業界から目が離せない。