A:結論からいえば、噛むことと脳の働きには密接な関係があります。手を使うと脳が活性化するといいますが、脳の血流量を増やすのに一番効果があるのは歩くこと。その次が、よく噛むことです。噛むほうが、手を使うことよりも上なのです。
東北大学の研究グループによると、残っている歯の数が減少するにつれ、脳が萎縮し、脳の機能が低下すると報告されています。
●認知症の人は歯が少ない
同グループは、仙台市に住む高齢者1100人を調査しました。その結果、健康な652人は平均で14.9本の歯があったのですが、認知症の疑いがある人は、平均9.4本しかなかったそうです。
同グループはまた、高齢者195人の脳をMRIで撮影し、歯の本数と脳組織の容積の関連を調べました。そして、歯の数が少ない人ほど、記憶をつかさどる海馬あたりや前頭葉の容積が減少していることがわかりました。容積が減っているということは、その部分の脳細胞が死滅し、減少しているということです。
さらに、高齢者の歯の状態と日常生活の状況も調べました。すると、自分の歯でしっかり噛める人は自立した生活を送っていましたが、歯がない人や義歯を装着していない人の60〜70%が「近所までしか外出できない」か「寝たきり」だったそうです。
ご質問の方の場合、まず歯を治療しましょう。失った所は義歯を入れ、歯並びを正しくすること。そして、よく噛んで食べる癖を身につけましょう。
●噛むのに適した食品
現代人は、噛む回数が驚くほど減っています。よく噛まないのは、軟らかい食品や料理を多食することと関係があります。軟らかければ、噛まなくても飲み込めるし、噛み過ぎると味がなくなってしまうからです。
よく噛んで食べるには、食品や料理を見直す必要があります。主食では、白米よりも玄米のほうが噛みごたえがあり、噛むほどにおいしさが広がります。パンなら、精白したものより全粒粉の小麦やライ麦、玄米のパンがお勧めです。
副食では、キノコ類、海藻類、根菜類、切り干し大根、漬け物、イカ、タコ、貝類などが適しています。
肉なら、ハンバーグなどのミンチ状の料理より、ステーキや焼き肉のほうが自然によく噛むはずです。
噛むことは日々のことですから、脳の活性化のため、常によく噛むことを意識して食事をしましょう。
山田 晶氏(飯田橋内科歯科クリニック副院長)
骨盤療法(ペルピックセラピー)で著名。日本歯科大学卒業。歯科の領域から骨格に関心を持ち、骨盤のゆがみに着目。骨盤のゆがみを自分で取る方法として、腰回しの普及に努めている。