「キャンプ初日にいきなり10時間の猛練習ですからね。選手が徹底的に鍛え直されている印象を受けました」(取材記者)
その猛練習を指示しているのは、宮本慎也ヘッドコーチ(47)だ。同コーチは長くチームを支えた功労者であり、守備の名手としても知られている。野球に対する真摯な姿勢が認められての「コーチ帰還」だが、いったんフロントに退いた小川淳司監督(60)の再登板という態勢から、近い将来、宮本ヘッドコーチが昇格するとの見方もされている。
「小川監督は一歩下がって、練習を見守っているという感じ。小川監督がある程度チームを建て直したら、宮本ヘッドにバトンタッチするのでしょう。若い選手が一人でも多く出てくれば…」(前出・同)
昨季の敗因は、故障者の続出によるもの。怪我をさせないため、練習量をキープするとの考え方もあるが、正反対のキャンプとなった。この「徹底的に鍛え直す」という練習プランを主張したのは、宮本ヘッドだったという。若手の成長が期待されるが、補強をしないわけにはいかない。フロントが「是が非でも帰って来てほしい」とし、交渉にあたってきたのが、青木宣親だ。
青木がチームに合流したのは、7日。前日の入団会見では、「自分のやり残したことはヤクルトで優勝すること」と力強く語っていたが、関係者、ファンはその帰還を歓迎すると同時に「一つの懸念材料」も思い浮かべていた。宮本ヘッドと青木の不仲を知らない者はいない。
「昔の話、両方ともオトナだし…」
そんなふうに一笑するチーム関係者も少なくなかったが、2人が衝突した時期もオトナになってからだったはず。チーム合流から3日以上が経過してもツーショットは見られない。お互いに、必要最低限の話しかしないようにつとめているようにも見えた。
「宮本ヘッドが練習全体を指示しているせいもあり、選手は小川監督ではなく、宮本ヘッドのほうを向いています。小川監督も自身は『次の監督への繋ぎ役』との意識があるので、問題はありません。しかし、対外試合が始まったら、小川監督は攻撃のサインが出しづらくなるのでは。ヘッドコーチ中心のキャンプを送れば、試合中、選手は本能的に監督よりも先に宮本ヘッドのほうを見てしまいます」(プロ野球解説者)
また、現在のヤクルト選手は青木を尊敬の眼差しで見ている。6年間のメジャー生活、7球団を渡り歩いた実績によるものだが、こういう状況を「青木嫌い」の宮本ヘッドは不快に感じるだろう。
「昨春のWBC・日本代表に青木も選ばれています。しかし、青木はスロースターターなので、バットでの貢献度は大きくありませんでした。シーズン後半はメッツの救世主となる活躍をおさめましたが。そんなスロースターターなところを考えると、序盤戦は我慢して青木を使わなければなりません。宮本ヘッドは我慢できるかな?」(前出・同)
そこで、小川監督の出番というわけだ。小川監督は二軍監督、一軍コーチなどを経て、第一次政権を務め上げた。善くも悪くも、黙認するタイプで、同時にほとんど怒らないことから、「ホトケの小川さん」なるあだ名もつけられている。したがって、小川監督を慕う選手は多い。「敵が一人もいない指揮官」が、ベテランと参謀役の不仲を調整できればというのが、周囲の期待だ。
「前任の真中監督には、選手を怒る場面も見られました。大敗の責任を一身にかぶるような辞め方は、今も一目置かれています」(関係者)
ホトケの小川監督は、ベテランと参謀のどちらか一方の味方をするわけにはいかない。衝突する場面になれば、「まあまあ…」と宥めることしかできないだろう。「真中時代が懐かしい」なんて声が出なければいいのだが…。