150カ国以上で猛威を振るった史上最大規模の身代金要求ウイルス『ワナクライ(WannaCry:泣きたくなる)』は、メールなどから感染すると真っ赤な画面が現れ、3日以内に300ドル(約3万4000円)をビットコインで払うよう要求されるばかりか、文書や画像などのファイルが開けなくなる。
米司法省は今年、北朝鮮ハッカー集団の1人の男を『ワナクライ』の実行犯として訴追している。その起訴状によれば、訴追されたのは北朝鮮のハッカー集団『ラザルス』所属のパク・ジンヒョク容疑者だ。パク容疑者は朝鮮人民軍偵察総局サイバー部隊『110研究所』傘下にある中国・大連の北朝鮮系フロント企業に配属されていた。米国がサイバー攻撃で北朝鮮の関係者を訴追するのは初めてのことだ。
パクが関与したとされるサイバー攻撃は『ワナクライ』だけではない。
〇米ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントの金正恩働党委員長暗殺を題材にしたコメディー映画『ザ・インタビュー』に対するハッキング事件
〇米防衛産業ロッキード・マーチンの高高度迎撃ミサイル(THAAD)担当者へのサイバー攻撃
〇英国民医療サービス(NHS)などへのランサムウェア拡散事件
〇バングラデシュ中央銀行のシステムを感染させ、8100万ドル(約92億円)を盗むサイバー強盗事件。なお同事件については、カネの足どりはフィリピンで消えている。
猛威を振るった『ワナクライ』は、意外なことに“ルーツ”は、アメリカ政府が進めていた極秘のサイバー戦だった。それが「発射寸前」に北朝鮮によってハッキングされるという失態を犯したといわれる。
西側諸国に比べ、経済力でも技術力でも著しく劣る北朝鮮は、金正日時代から核・ミサイル開発とともにサイバー能力の向上に努めてきた。それから中国や西側諸国に優秀な若手を送り込み、最先端のサイバー技術を盗み出した。
金正恩委員長は「サイバー戦は、核・ミサイルと並ぶ万能の宝剣」と位置付けているため、現体制になって以降、サイバー攻撃は増え続けている。通常兵器ではとても米韓には対抗できないものの、サイバー攻撃なら経済制裁をくぐり抜けながら、巨額の資金を集めることができるからだ。
実際2017年4月22日以降からは、高騰する仮想通貨を狙ったサイバー攻撃が多発した。仮想通貨交換所で4つのウォレットが不正アクセスの対象になり、5月には、2つの仮想通貨交換所を標的としたスピアフィッシング攻撃と不正アクセス相次いだ。
韓国情報筋によると、北の偵察総局傘下には1万2000人余が所属しており、うち1000人余が海外で活動しているという。偵察総局などを中心にサイバー司令部が創設され、7つのハッキング組織で1700人余が活動している(13年11月時点)。
むろん日本も北朝鮮のサイバー攻撃にさらされていることは言うまでもない。