原因はいくつか考えられる。一般的に不自然な就寝スタイルが大きな要因とされるが、とくに飲み会の多い春先に患者が増えるという専門医の証言がある。新入社員や人事異動での歓送迎会、花見の酒宴などが続き、「飲酒後、深夜に帰宅し、そのまま布団にうつ伏せで寝てしまう」といった行動パターンが寝違えを起こす大きな原因ともいわれている。
厄介なのは、一度寝違えを起こすと、振り向くことも頭を傾けることも出来ないほどの痛みだ。動きはぎこちなくなり、関節の動く範囲も狭まるため、日本大学麻酔科の小川節郎教授は「さまざまな症状がありますが、わかりやすく言えば、就寝時の“捻挫”と思える」と解説している。
そんな「寝違え」は、どんなメカニズムで起こるのか。専門家の表現を借りるとこんなふうになる。
「人の熟睡しているときの状態を見ると、筋肉が緩み不自然な姿勢のままでも、すぐに元の姿勢には戻らない(寝返りを打たない)。そのため、筋肉や腱(けん)が長時間伸びたままの状態になり、寝違えを起こし易く、首の周辺に痛みが発症する」
やはり、前述の通り不自然な就寝姿勢が良くないことがわかる。悪い姿勢が頸椎や背骨に余分な力を加わえてしまい、血行不良や神経を痛め、首周辺に炎症を起こす要因を作り、それが“突発性の痛み”を発症するというわけだ。この症状、男女を問わず幅広い年齢層で起こる恐れがある。
和歌山県立医科大学の研究グループが2007年、20〜80歳代の男女50人に寝違えに関する意識調査をしたところ、90%が「経験したことがある」と答えている。また、寝違えと無縁に見えるプロのスポーツ選手やボディービルで筋肉隆々の人でも、避けられない現状にある。
寝違いの要因について、明確な統計データはないが、東京・大田区で整形外科クリニックを開く加藤晋院長は「ウチは会社員が多く利用していますが、飲み会が続く季節は寝違えの患者さんが増えるんです」と言う。
そして、その主因を占めるのが、アルコールの飲み過ぎによるものとし、「泥酔状態が最も起こしやすいので注意すべきだ」という。
「寝違えというのは、そもそもが不自然な格好で寝ていることで起きます。普通なら、不自然な格好は“寝返り”などで自然体な姿勢に戻るが、何らかの理由で戻らないでいると、頸部などにダメージが蓄積される。とくに泥酔状態であれば、なおさら寝返りを打たず、また枕から落ちても気づかずにそのままの状態で“完全熟睡”する。そのため“泥酔こそ寝違えの危険度一番”と言わざるを得ない。もちろん枕が合わないとか、他にも原因がいろいろありますけど…」(加藤院長)
確かに、寝違えの要因の大半を「アルコールの飲み過ぎ」が関係しているとする医療関係者が多いが、中にはストレスや肝臓、胃の疾患の影響で起こるケースもあると言う専門家もいる。
とくにアルコールを含め何らかの原因で肝臓が疲労している場合、肩甲骨と背中を繋ぐ筋肉が強張り、頸部の筋肉が縮むために寝違えが起きやすいとする専門家もいる。
また起床時、頸部に突然の激痛が出る寝違えは「骨盤の歪み」が関係しているとして、対処法を考え治療に当たる整体医もいる。