6月28日、対中日戦。甲子園球場では今の阪神を象徴するような小さなほころびが見られた。
「あれは、普通の三塁手なら…」
4回表一死、走者ナシ。中日の4番・ルナの打球が三遊間を割った。筆者の眼にはクリーンヒットに見えたが、たまたま居合わせたプロ野球解説者は“急造三塁手”西岡剛(29)の『ミス』だと指摘した。普通の三塁手であれば、捕球できた打球だというのだ。
故障で長期離脱していた西岡が復帰し、守備陣の“玉突き事故”が起きたのは既報通り。代理二塁手の上本博紀(27)が攻守ともに存在感を発揮し、「西岡と両方を使うべき」との意見が大半を占めた。どちらかを三塁にコンバートする二択となり、和田監督は決断したのが『三塁・西岡』だった。
ルナのレフト前ヒットは、記録には表れない失策ということか…。
先発・岩崎優(23)は後続を退け、和田監督も覚悟していたとは思うが、7回に2試合連続となるエラーを記録している。こちらも失点には繋がらなかったが、西岡が二塁とは違う、三塁での打球の強さや距離感などを克服するのと、和田監督のストレスが爆発するのはどちらが先か? 目下、阪神打線は下降気味なだけに『僅差の場面』では、シーズン中のコンバートが致命傷になりかねない。
「西岡の復帰後の打順は1番。復帰して2試合でまだヒットは出ていません。上本を1番で使い続けた方が…」(前出・同)
些細なミスは采配にも見られた。
8回表、和田監督は二番手・福原忍(37)をマウンドに送った。その福原が二塁まで走者を進めてしまう。スコアは「1-1」。中西清起・投手コーチがマウンドに向かったが、和田監督はリリーバーを送るのを躊躇った。理由は簡単だ。『9番・先発の岩崎』の打順に福原を入れており、次回の攻撃はその『9番・福原』から始まる。
「和田監督はその8回表の守りから福原だけではなく、捕手も代えています。スタメンマスクの梅野の打順は7番、試合終盤、経験豊富な藤井に交代させた采配は間違っていないが、『7番・福原』『9番・藤井』にしておけば、福原を無理に続投させる必要はありませんでした」(前出・同)
8回裏、決勝点を許した福原に代打を送られた。和田監督は得点圏(二塁)に走者を背負った時点で「次回の攻撃で代打を送るのだから、ここで無駄な投手を使いたくない」と思うのと同時に、福原に「何とか踏ん張ってくれ!」と祈るような気持ちを募らせていたはずだ。右の福原は左打者・森野に決勝打を許した。9回表のマウンドに上がったのは、金田和之(23)と、左腕・榎田大樹(27)。「たら、れば」の仮説の話をしても仕方ないが、慎重を期して、『7番・福原、9番・藤井』の選手交代をしておけば、8回、二塁に走者を背負った時点で、3番・エルナンデス(両打)、4番・ルナ(右打)に金田を送り、森野(左打)のところで榎田を投入する“攻撃的な継投”もできたのだ。
関西圏で活躍しているプロ野球解説者の1人がこう言う。
「西岡の三塁コンバート、そして、不用意に福原を『9番』に入れたことは、和田監督の選手への信頼でもあるんです。何とかしてくれるだろう、と…。その選手への信頼が全て裏目に出ている」
9回裏、中日の谷繁元信・兼任監督(43)は浅尾を送ったが、走者を1人出したところで、岩瀬にスイッチした。岩瀬は昨日も投げているが、本調子には程遠かった。案の定、この日も対戦した最初のバッターに四球を与えてしまう。谷繁監督はベンチを飛び出し、自ら岩瀬に檄を飛ばした。次打者(代打・関本)をショートゴロで併殺に仕留め、ゲームセット。岩瀬に早く不振を脱してもらいたいとの思いが、谷繁監督をマウンドに向かわせたのだろう。
「阪神グループの株主総会では、日本人メジャーリーガーの帰還を挙げ、外部補強に批判的な発言がありました。南信男球団社長は『勝ちながら、若手も育て…』と弁明していましたが、出席者は納得していません。株主総会が終わった直後に、本調子ではない福留、西岡の一軍昇格が決まり、建山の途中加入も決まりました。外部から選手を補強する前にやるべきことがあるのでは」(前出・解説者)
選手を信頼すること−−。それは両指揮官とも同じだが、具現の仕方が違う。3位・阪神がゲームを落とし、4位・中日とのゲームはゼロ(同時点)。若い谷繁監督の方が強かに見えたのは筆者だけだろうか。(スポーツライター・飯山満)