もちろんこうした施策は、参議院選挙に向けた人気取りで、成長戦略の基本は、あくまでも規制緩和を中心とした弱肉強食政策だ。その中心が、安倍総理自身が議長を務める産業競争力会議で議論している「アベノミクス戦略特区」だ。東京・名古屋・大阪の三大都市圏を中心に特区を作り、重点的な規制緩和や税制優遇を行おうとするものだ。特区内では法人税率の大幅引き下げや公共交通の24時間運行などが検討されている。
この政策は自民党の大きな方向転換だ。これまでの自民党の政策は、地方優先だった。大都市から得られる税収を地方交付税や公共事業で地方に分配し、地方経済を下支えてしてきたのだ。それを大都市優遇に転換するのだから、ますます経済の大都市集中が起こり、ただでさえ疲弊している地方経済を空洞化させることになる。
そもそも大都市だけ法人税を下げるというのは、不公平極まりない。外資系企業を呼び込むためには仕方がないと言うのだろうが、なぜ外資系企業を優遇する必要があるのか。また、法人税を下げる財政的余裕があるのなら、消費税の引き上げを先送りしたほうが、よほど経済効果がある。結局アベノミクスが目指している社会は、地方というお荷物を切り捨てることであり、その施策に最も資するのがTPPへの参加なのだ。
一方、三大都市に住んでいる人も安泰ではない。たとえば、東京で地下鉄やバスが24時間運行を始めたら何が起きるのか。最初に影響を受けるのは、東京のタクシードライバーの多くが、深夜の需要に売上のかなりの部分を依存している。だから地下鉄やバスが24時間運行を始めたら、大幅な年収ダウンになることは、間違いないのだ。
それだけではない。一般のサラリーマンも大きな影響を受ける。東京の地下鉄は、深夜にもラッシュが訪れる。タクシー券の出ない企業の従業員が、終電に合わせて帰宅するためだ。そのことは、終電が残業の一つの歯止めになっていることを意味している。もし公共交通機関が24時間運行を始めたら、その歯止めがきかなくなり、サラリーマンは無制限に残業をさせられることになるだろう。もちろんその大部分はサービス残業だ。
安倍総理は、成長戦略の一環として、労働移動支援助成金の拡充も打ち出している。だが、同時に産業競争力会議では、解雇規制の緩和が検討されているから、クビにしやすい労働市場流動化を作ろうとしているのは明らかだ。成長戦略の中、農村が見捨てられ荒廃する一方で、大都市ではサラリーマンがリストラに怯えながら24時間働き続ける。そうした未来が待ち受けているのだ。
そんなバカげたことが起きるはずがないと思われるかもしれない。しかし、アメリカや中国は現にそうなっている。そこに日本社会が近づいていくことが、グローバリズム、つまりアベノミクスの正体なのだ。