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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第28回 オランダの危機

 日本のマスコミはほとんど報道しないが、ユーロの中心国の一つであるオランダがまずいことになっている。「またユーロか…」と言われそうだが、とにかくユーロ圏は「経済がまともな国」の方が少ない状況なのだ。
 しかも、「経済がまずことになっている国」は、それぞれ理由が異なる。特に、オランダが「まずいことになっている」理由は、南欧諸国などとは全く違うため、本連載でも取り上げておく。

 オランダといえば、ドイツに次ぐユーロの優等生。慢性的な貿易黒字国、経常収支黒字国であり、新自由主義者お好みの構造改革も進んでおり、ドイツの緊縮財政・構造改革路線をバックアップしてくれる国という印象であった。そのはずだったのだ。
 オランダの過去一年の失業率の状況を見ると、2012年5月が5.1%、8月が5.3%、11月が5.6%、'13年2月が6.2%、3月が6.5%と、ジリジリと悪化してきている。しかも、怖いことにオランダは過去一年間、一度も失業率が改善していない。
 また、同国の2012年の経済成長率はマイナス1%だった。さらに、今年の同国も経済成長率はマイナスに終わると予想されている。

 一体、オランダに何が起きているのか。
 オランダは、ユーロ圏においてドイツに次いで経常収支の黒字が大きい。外国との所得のやり取りを示す経常収支を見る限り、オランダは「勝ち組」に属している。
 それにもかかわらず、経済成長率がマイナスで、失業率は上昇を続けている。ユーロ主要国の経常収支をグラフ化してみよう。

 改めてデータを左ページ(本誌参照)のようにグラフ化すると、
 「ユーロ圏の経常収支黒字国はひたすら黒字を拡大し、赤字国はこれまたひたすら赤字を拡大する」
 いわゆるユーロ・インバランスが'08年に終了していることが確認できる。'07年のアイルランドを皮切りに、各加盟国で次々に不動産バブルが崩壊していった。翌'08年9月にはリーマンショックが発生、さらにギリシャなどの財政危機が顕在化していく。
 その後、経常収支赤字組(フランスなど)の赤字幅は横ばいで推移していたが、2012年に一気に縮小してしまう。
 最早(フランスを除き)ユーロ諸国に、経常収支の赤字を引き受ける余力はないのだ。

 さて、オランダはユーロ圏でドイツに次ぐ経常収支の黒字を確保し続けている。このオランダがなぜ「危機」なのか。
 実のところ、大して難しい話ではなく、
 「ITバブル崩壊の直撃を受けたドイツを救うために、ECBが金利を引き下げた結果、オランダで(オランダ以外も)不動産バブルが発生し、家計の負債が膨れ上がっていった。その後、不動産バブル崩壊が始まり、オランダは『巨額の家計の債務』という重い足かせをはめられることになった」
 のである。
 オランダの家計の債務は、対可処分所得比で何と250%に達している。家計の債務対可処分所得比率250%、これは凄い数値である。何しろ、リーマンショック前のアメリカでさえ、精々が160%程度だった。さらに、猛烈な不動産バブルとバブル崩壊に見舞われたスペインですら、120%程度だったのである。
 結局、オランダは他のユーロ加盟国(除ドイツ)同様に「家計の負債拡大」と不動産バブルに依存した経済成長を遂げてきたのだ。不動産バブルが崩壊し、「家計の借金返済が拡大」⇒「国内の需要(消費)縮小」⇒「失業率上昇・経済成長率低迷」という道を辿っているのである。

 不動産バブルが崩壊したにもかかわらず、経常収支の黒字が増える。そんなことがあるのか、と思われた読者がいるかもしれないが、普通にある。かつての日本もそうだった。
 オランダの家計は過剰な(過剰すぎる)債務の返済負担により、消費を減らし始めている。消費という内需が縮小した結果、オランダ企業の「供給能力」が国内の需要に対し過剰になり、「同国の供給能力が外需に充てられた」という話なのだ。
 要は、オランダ企業は国内で製品が売れないため、外国へ輸出ドライブをかけたのである。結果、貿易黒字が拡大し、経常収支の黒字が維持されているわけである(バブル崩壊後の日本も、このままの道を辿り、経常収支の黒字を拡大した)。

 オランダは経常収支黒字国であり、国内の供給能力は十分だ。
 すなわち、アベノミクス的に金融政策と財政政策のパッケージを国内で実施すれば、経済を成長路線に戻し、失業率を引き下げることができる。
 とはいえ、ユーロ加盟国のオランダは金融政策の主権を持っていない。しかも、政府はドイツ式の緊縮財政を継続し、状況を悪化させることを続けている。
 さらに、昨今の円安ユーロ高はドイツのみならず、オランダ経済をも直撃する。国内の民間債務が過剰になっている状況で、輸出が減少する。これは厳しい。まさに、同様の経験をした日本国民であれば、理解できるはずだ。

 このままでは、オランダは「構造的な日本化」の道を辿ることになる。日本の場合、単に政策担当者がミスを繰り返した「政策的な日本化」だったわけだが、オランダの場合はユーロに加盟している限り、どうあがいても日本化の道を辿らざるを得ない。現在のオランダの経済の低迷こそが、まさに「構造問題」と呼ぶに値するのだ。
 そう考えたとき、ユーロから最も早く離脱する国がオランダであっても、筆者は全く驚かないわけである。

三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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