「朴槿恵大統領糾弾のデモにより『現政権の決定はすべて悪』との世論が醸成され、有力な大統領候補3人全員が在韓米軍へのTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備、日本とのGSOMIA(軍事情報包括保護協定)締結、従軍慰安婦合意の三つすべてを見直すと主張しました。民衆が歓迎するこの流れに、軍に影響力のある保守派の重鎮は『クーデター』という言葉こそ出していないものの、『左翼政権が登場し“親北政策”に乗り出したら黙っていない』と繰り返し主張しました。すると、ある大物ジャーナリストがツイッターで『こいつを内乱扇動罪で拘束せねばならない』とつぶやき、両陣営の火花がバチバチ飛んでいます。とはいえ、保守のセヌリ党は分裂し、大統領候補も決められない状況で、選挙をまともに戦えるのかさえ読めません。各種世論調査を見ても、来る大統領選では左派の誰かが勝つのは間違いないでしょう」(在日韓国人ジャーナリスト)
右顧左眄の激しい人気ナンバー2の潘基文前国連事務総長は、やはりというべきか「慰安婦合意による日本からの10億円拠出金は返す」と大統領選を見据えて露骨な“世論迎合”に打って出た。外交に関するウィーン条約に違反している日本大使館、日本領事館前の慰安婦像設置を見るまでもなく、現在の韓国はポピュリズムが強すぎて民主・法治主義が機能していない。
この状況は1960年に酷似しているというのは、さる軍事アナリストだ。
「韓国は過去に二度、軍がクーデターを起こし全権を握った歴史があります。最初は朴正煕大統領が少将時代に主導した『5・16軍事クーデター』です。二度目は朴大統領が1979年に暗殺され、政治空白が生じたとき、『北の脅威』や『安全保障』を理由に陸士11期卒の全斗煥国軍保安司令官や盧泰愚第9師団長らが決起して戒厳令を敷き、民主化運動の『ソウルの春』をつぶし、1980年に軍政を敷いている。現在と似た状況なのは、『5・16軍事クーデター』の方です。左翼勢力は、朴槿恵大統領が下野した日を1960年4月に起きた『四月革命』(4・19=李承晩大統領が下野した事件)になぞらえていますが、その直後に軍は『5・16』を起こしている。朴正煕元大統領は朴槿恵大統領の実の父です」
大統領レースで一番人気の『共に民主党』の文在寅前代表には気になる主張がある。現政権が行った開城工業団地の閉鎖を批判しているのだ。
「同工業団地の閉鎖は、北朝鮮の核・ミサイル開発阻止に向け、国連が主導する対北制裁の一環です。それを復活させるというのなら米国は韓国との同盟を打ち切ると言い出すでしょう。また、文氏は、『(大統領に就任したら)真っ先に北朝鮮を訪問する』とも語りました。彼はかつて北朝鮮が提唱した『高麗連邦』に近い『一国家二制度』論者です。米国がこれを認めるとは思えませんが、朝鮮半島の“緩衝地帯化”を最大利益とする中国が押し切る形になれば、韓国は事実上の中国の属国となり、日本の防衛ラインは38度線から日本海まで下げざるを得ません」(同)
実は「5・16」に際して、当時、独裁色を強める李承晩政権の打倒計画は、米軍の黙認のもとに韓国軍が策定した。これには朴正煕大佐(当時)も加わっている。元軍強硬派を政権中枢に据えた米トランプ政権は、韓国の現在の混乱にどう対処しようとするだろうか。
「廬武鉉・金大中大統領のような北朝鮮寄りの指導者が現れれば、間違いなく米軍は韓国から撤退し、中露の防御線として機能してきた朝鮮半島を放棄し、防御線を下げるでしょうね。そうなれば、『金正恩暗殺部隊』を編成した韓国軍部は、在韓米軍という後ろ盾を失い、北朝鮮に粛清されかねない。そうなる前に軍が新政権を乗っ取る可能性は否定できません」(北朝鮮ウオッチャー)
「北の核の脅威」は最高潮に達しているというのが軍の認識とはいえ、金泳三文民政権が誕生した1993年2月以来、軍の政治への介入は26年間途絶えており、韓国も軍民共に日本同様の“平和ボケ”が続いている。
「国会が可決した朴大統領の弾劾訴追案は現在、憲法裁判所で審理中ですが、弾劾が有効となれば60日以内に大統領選挙が実施されます。これを踏まえて韓国メディアは、憲法裁判所が3月までに『弾劾は正しい』との判断を下すとの読みから、選挙は今年の前半に行われると予測しています」(韓国紙記者)
選挙戦に突入した後の60日間に、一体何が起こるのか。
前出の北朝鮮ウオッチャーは、こう予測する。
「北朝鮮もあまり韓国を追い込むと軍事クーデターが起きることを懸念しており、同時に韓国の“平和ボケ”の具合もしっかり分析しています。まずは、従軍慰安婦問題を引っかき回して日韓を離反させ、米国の出方をうかがうでしょう」
ある歴史家は「民主主義の経験が浅い国ほどクーデターにつながる」と言う。「二度あることは三度ある」というのが、世の倣いでもある。