この地域には「いざなぎ流」の神を祀る神社が無数に点在しているが、中でも、この「K神社」は氏神社として強い力を持ち、K姓を名乗る者たちが代々守り抜いてきた。
「いざなぎ流では呪うことを“因縁調伏”と言います。K神社はもともと平家の落人だったK氏が建てたもの。年に一度、全国各地に散らばったK姓が集まり、儀式を行うんです」(K一族の末裔)
●太夫が身につける面と笠には強力な呪力が
神社周辺の民家の表札を見ると、確かにK姓が多く見受けられる。だが、過疎化が進む彼の地では、集落から離れてしまう者も増えてきた。それでも年に一度だけ、呪いの儀式のために、全国各地に散らばったK一族が集結する日があるという。
そもそも「いざなぎ流」とは、村民に古くから伝わる祭儀、祈祷、占いを総称した呼び名だが、それはあくまでも表の顔。陰陽道の流れをくむということからもわかるように、「いざなぎ流」には悪霊と闘い、病を祈祷で治すなどという裏の顔を持っている。
「その中に“因縁調伏”という呪いの祈祷秘術が存在し、個人の家に呪術師が訪れ、作法にのっとって呪いたい相手に災いをもたらすのですが、我々は一族に仇なす敵を打ち倒したり祓ったりするために、この儀式を行うのです」(前出・K一族の末裔)
こうした祈祷を行う呪術師は「太夫」と呼ばれる。普段は他の村民と変わらぬ生活を送っているが、いざ祈祷が始まると呪術師と化し、1週間に及ぶ祈祷によって、太夫は強力な呪力を操ることができるとされているのだ。
「太夫が身につける面と笠には、強力な呪力が宿って悪霊を集めると言い伝えられています。太夫以外の人も因縁調伏を行うことがあるんですが、それをこの村では『シキを打つ』と言う。だから、各個人宅には、その打たれたシキを食い、呪いを無力化する『シキ食い面』というのもあります」(同)
四国山地に囲まれた集落で育まれた、独自の民間信仰「いざなぎ流」。閉鎖的な空間で生まれ出た呪いの儀式は、一族の繁栄のため、この神社とともに今も存在し続けているのだ。