しかし、ネット上の掲示板には「ただの棒」、「色気もヘルシーさも無い」、「胸もお尻も貧相」、「細い=スタイルが良いはおかしい」と手厳しい声も見られた。女性のプロポーションが単なる細身から健康な肉体美へとの嗜好が移り変わる現代、工藤の肢体は受け入れられていないようだ。
ダイエット大国日本の女性たちは、本来痩せていることとプロポーションの良さを取り違える傾向にあった。農林水産省は厚生労働省発表の「平成16年国民健康・栄養調査」を基に、若い女性の間での過度の痩せを報告し、外見を意識した強いダイエット思考がその理由と指摘する。
また、同省はキリンビールのお酒と生活文化研究所が平成18年に全国20歳以上の女性を対象に行った調査「ダイエットに関する女性の意識調査について」の結果を分析し、その65%は自分が太っていると考えているが、実際はそのうち84%が低体重か普通体重だと報告した。ダイエット食品を4人に1人が利用していることなどから、女性の間では”痩せている方がおしゃれ”という概念が強いと分析した。当時資生堂のANESSAのCMで大ブレイクした“エビちゃん“こと蛯原友里ら、スレンダーで筋肉のない直線的な体型は、この時代の若い女性の嗜好を象徴している。
しかしその概念に変化が現れた。昨年ORICON NEWSが10代から50代の女性を対象に調査し「第三回 女性が選ぶ“理想のボディ”ランキング」を発表。上位に選ばれたのは菜々緒、深田恭子、長澤まさみ、米倉涼子だった。彼女たちの共通点は単なる痩せ型ではなく、出るところは出て絞まるところは締まる、適度に鍛えられた健康的なボディラインだ。
欧米でもビヨンセやキム・カーダシアンの筋トレボディが、ハイソな女性たちの憧れだ。健康志向が高まり、多くの人々が栄養バランスの良い食生活や運動の習慣をライフスタイルに取り入れている。それに伴い、女性たちのプロポーションの嗜好が単なる痩せ型の体型から、程よく鍛えられたハリのあるボディへ移り変わったのは自然の成り行きだろう。社会進出が進み、それまでの受け身の姿勢から脱皮して、自発的に行動する意識が女性たちの間で高まっている。彼女らは変化の重要な担い手であろう。
今年6月に大阪で開催されたG20サミットで、米トランプ大統領の長女であり大統領補佐官を務めるイバンカ氏が女性のエンパワーメントを各国首脳に向けて呼びかけ、女性が自信と力と権力を持つ重要性を主張した。男性が手を差し伸べたくなるような繊細さや、か弱さが女性の美しさを表すという概念は、男女間のダイナミズムの変化の波に飲まれつつある。
今回インターネットで話題になった工藤だが、ネットの反応を見る限り、肉体に対する美意識は変化したようだ。今日からでも筋トレを始め、十年後にはハツラツとしたビキニ姿を「50代最後の夏という事で」と披露してほしい。
文:作家 大内華衣
本文内の引用について
農林水産省 食育の現状 食生活の現状
http://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h18_h/trend/1/t1_1_3_01.html
ORICON NEWS「第三回 女性が選ぶ“理想のボディ”ランキング」
https://www.oricon.co.jp/special/51956/