12月18日、トヨタの寺師茂樹副社長は事業発表で、「バッテリーという最後のピースが埋まった」と力強く述べ、2030年までに電動化車両の生産台数の目標を550万台とした。
「電動自動車と一口に言っても、大きく4パターンに分けられる。エンジンとモーターの両方を備えるハイブリッド車(HV)と、コンセントからバッテリーに直接充電できるプラグインハイブリッド車(PHV)、バッテリーと電機モーターのみで走る完全電気自動車(EV)、さらに発電に水素などを利用する燃料電池車(FCV)。トヨタは550万台のうち、100万台をEV、FCVにするとも発表したのです」(業界関係者)
トヨタ自動車単体での世界販売台数は約900万台(2016年実績)であることから、そのうち実に50%以上を電動化するという。では、この動きに先駆け、世界の電動自動車の動向はどうなっているのか。
まず、今や年間2800万台を販売する自動車大国となった中国は、昨年9月、環境対策の一環として国策で電動化への舵を切った。英仏も、'40年を目途にガソリン車とディーゼル車の新車販売を禁止すると打ち出し、ヨーロッパ各国のメーカーは一斉にEVへシフトし始めている。そうした中、大手でEV化を最も鮮明にしているのが、独・フォルクスワーゲン(VW)で、'25年までに50車種を投入する方針を掲げている。
「VWは'15年、排出ガス不正が暴露され窮地に立ったが、中国でのダメージが少なかったために'16年は1017万台を販売し、トヨタを抜いて販売台数世界一となった。そのVWが大きくEVに舵を切ったのは、HVやガソリン車ではトヨタなどの日本車に勝てないからです。それは中国も同じで、欧米中が技術で日本を上回ることができないことを見越して、何とか逆転したいから。つまり、環境を盾に世界標準を変える戦略に出たとも言われているのです」(車雑誌記者)
日本で、こうした向きをいち早く察知して動いたのが、仏ルノー系列の日産。'10年から販売を開始したEV『リーフ』は改良を重ね、航続時間400㎞で累計30万台に迫る勢い。一方で周回遅れの感があったトヨタだったのだが、今回の“電動化宣言”にメーカー各社がざわめいているという。
「発表などからも分かるように、トヨタが二の足を踏んでいたのは、バッテリーの安全が確認できなかったからです。'09年に起きた大規模リコールのような事態は絶対に起こせない。見切り発車ができない中、パナソニックとの提携が見込めたことから、ようやく先に進むことができたとされます」(同)
パナソニックは電動車バッテリーで、韓国のLG化学、サムスンSDI、中国のCATL、BYDと性能を争っている。量産の面では中国が急ピッチで伸びているが、技術のトップランナーはパナソニックというのが業界間での一般的な見方だという。
「パナはテスラ社と提携し、車載電池の円筒型バッテリーを手掛け、2社で5000億円を投じアメリカに工場も立ち上げる一方で、'96年からトヨタともハイブリッドカーなどの電池製造会社を共同出資し協力もしている。その擦り合わせの継続から、今回のEVでのバッテリーの協業話が実った。目指すのは角型全個体電池の開発としていますが、パナとしては丸型に続き角型でも世界ナンバーワンを目指すという目論見もあります」(同)
その車載電池で各社がしのぎを削るのは、安全性とコスト、そして重量だ。
「現在、車載電池の主流はリチウム電池ですが、液漏れや発火の危険性など、液体電池特有の問題を抱える。それを固定電池にすれば安全性は格段に高まるが、エネルギーの出力量やコスト、量産体制を作り出すことが必要となる。トヨタはパナと組むことによって、これらすべてがクリアできると踏んだのです」(前出・業界関係者)
トヨタには車載バッテリーを制したメーカーが次世代のEV戦争の勝者となる考え方だが、日産は逆で、NECと立ち上げていた蓄電池事業をすでに中国に売却している。
「バッテリーはいずれ平準化し、どれも同じになるだろうというのが、会長のカルロス・ゴーン氏の表向きの考え。その開発コストをEVの他部門に投じ、中国などでの市場拡大を優先させる動きを見せてきた。しかし、トヨタに触発されたかどうかは分かりませんが、日産が'20年に向け全個体電池の開発に踏み切ったという話もある」(同)
トヨタの動きで、EVを巡る車業界の動きは急転しそうだ。