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プロレス解体新書 ROUND5 〈究極の兄弟弟子対決〉 流血ファイトの末に涙の抱擁

 “原爆頭突き”の大木金太郎。やはりヘッドバットを得意とするボボ・ブラジルですら思わず顔をしかめたという必殺技を、アントニオ猪木は自ら頭を突き出すようにして受けてみせた。
 新弟子時代からの互いの思いがリング上で交錯した。

 力道山=日本プロレスの正統後継者というときに、まず名前が挙がるのはジャイアント馬場であろう。
 力道山亡き後の日プロでエースの座を担い、また独立して全日本プロレスを旗揚げした後も、日プロゆかりのインター王座やアジアタッグなどのベルトを発展継承していった。
 だが、力道山への思慕の強さ、精神面において最もその背中を追い続けたのは、大木金太郎ではなかったか。

 力道山に憧れて韓国から密入国しての日プロ入門。
 「朝鮮人はパッチギ(頭突き)が強い」と、当時、広くいわれていたイメージからこれを鍛えるよう力道山に命じられると、昼夜を問わず一心不乱にサンドバッグめがけて前頭部を打ち込んだ。
 力道山の死後は、帰国して『大韓プロレス』を旗揚げ。韓国では本名のキム・イルとして闘った大木の人気は、師の力道山に迫るものがあったという。
 試合のテレビ中継が始まると、街中に設置された白黒テレビの前に大勢の人が押し寄せたものだった。

 ちなみに、この頃の敵役は欧米人のほかに日本人を名乗る選手もいたようで、その詳細はよく分かっていないが、多くは日本人を名乗る日系選手か、レスラーとは名ばかりの素人であったと思われる。
 まっとうな日本人プロレスラーとしては、1965年にソウルで行われた『5カ国親善プロレス』に、大熊元司が参戦した記録が残っている。
 なお、このときの大熊は、相撲から転向してデビュー3年目だった。それでいて日本代表とされた上に、大木と並ぶ韓国のスター選手・張永哲を過度な攻め(逆エビ固め)で潰したとして、セコンドが大挙乱入。あわれ大熊は報復の集団リンチを受けるハメになった。

 ともかく、韓国でスターの座を獲得しつつあった大木であったが、'66年には日プロに復帰することになる。
 アントニオ猪木が東京プロレスに参加したため、その穴埋めとして日プロからの要請を受けてのことだった。
 大木が韓国でのエースの座を捨ててまで、日本で馬場の二番手になることを選んだ動機は、やはり「力道山先生の創った日プロを潰すわけにはいかない」という点が大きかった。

 その後、日プロに猪木が復帰して、中堅に甘んじた大木に対し、国際プロレスからトップ待遇でのスカウトがかかった際も、結局は残留を選んでいる。
 日プロ崩壊寸前の最末期に、NET(現在のテレビ朝日)が坂口征二を介して新日本プロレスとの合併を持ち掛けた際も、大木は坂口を「裏切者」呼ばわりして追放し、日プロ単独での生き残りを図った。
 これらは、すべて師・力道山のためであった。

 大木のそんな思いも空しく日プロが崩壊すると、当初は馬場の全日へ身を寄せたが、待遇への不満から早々に離脱する。大木の保持していた、力道山から続くインターヘビー、アジアヘビーの防衛戦が組まれなかったことが、大きな原因の一つだった。
 しかも韓国においては、先に大熊に潰された張が「プロレスはショーである」と暴露したことの影響で、人気が急降下。興行の規模は縮小し、テレビ中継も打ち切り状態となって、大木は日本に活路を求めるしかなかった。

 そこに声を掛けたのが、猪木の新日本プロレスである。日プロを飛び出したという点では猪木もまた裏切者だが、大木の猪木への思いは、馬場や坂口に対するものとはやや異なる。
 新弟子時代の2人は、入団当初からスターを約束された馬場と違って、師匠の力道山からイジメにも近いしごきを受けていた。また大木は猪木が当初、日系ブラジル人とされていたプロフィールを信じ込み、“在日仲間”として親しみを感じていたともいう。
 「猪木にしても、大木が晩年に体調を崩して長期入院していた頃、最初にテレビ番組の企画で訪れた後も、何度か韓国まで見舞いに訪れていて、100万円の見舞金まで渡していたそうです。猪木の人情味あるエピソードは珍しく、やはりどこか大木への特別な思いがあったのでしょう」(プロレス記者)

 そんな2人の対戦は、勝った猪木はもちろん、敗れた大木にとっても生涯屈指のベストバウトとなった。
 '74年10月10日、蔵前国技館。
 序盤のヘッドバットをめぐる攻防から、徐々にペースをつかんだ大木が頭突きを連発。これを受けきった猪木がバックドロップで大木を下すと、両者はリング上で固く抱き合い、人目もはばからずむせび泣いた。このときの両者の心情はいかばかりであったか。

 なお、大木はこのときの新日参戦で、因縁深き坂口とは感情むき出しのセメントマッチを繰り広げている。それだけにいっそう猪木との好勝負は、裏に秘められた互いの情感を想起させるのだ。

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