西岡剛、福留孝介らを獲得したように、オフの主役は阪神だった。しかし、最優先事項であったはずの『ポスト藤川』は外部補強できず、ベテラン・久保康友(32)を配置換えというお粗末な結果になってしまった。野手陣は大型補強で“華やか”になったが、投手陣は代わり映えしていない。そうなると、どうしても黄金ルーキーに行ってしまう。
藤浪のストレートは速い。このストレートが「今の阪神投手陣にはない魅力」となっている。何事もなければ、先発6人枠は能見篤史、岩田稔を軸に、メッセンジャーとスタンリッジの両外国人投手が入ってくるだろう。5番手以降は榎田大樹、伊藤和雄、二神一人、ベテランの安藤優也(キャンプは二軍)が争う図式になっていた。このメンツを見れば分かる通り、「ストレートの速い先発タイプ」は藤浪だけなのだ。今、阪神投手陣のなかで、もっとも速いストレートを投げているのも藤浪である。藤浪は「開幕ローテーション」に入ってくるのではないだろうか。
もしそうなった場合、阪神の開幕カードは東京ヤクルト(神宮球場)。主催試合となる第2節(開幕4試合目)の中日戦が予想される。藤浪が開幕ローテーション入りできると思える理由がもう1つある。
阪神キャンプを見る前に日ハムの大谷翔平も見たが、同じ長身でありながら、全身を使っているのは藤浪の方だった。大谷の将来性を否定するわけではないが、下半身の安定した投球フォームを見ていると、「過労でバランスを崩し、怪我に…」という心配もない。たとえ黒星先行になっても、先発ローテーションで使った方が将来のためではないだろうか。
また、打撃陣だが、西岡、福留、新外国人選手・コンラッドの加入で“豪華”にはなったが、昨季はエンドランや犠打などが中心だった打撃練習が『フリーバッティング』中心に変わった。あるプロ野球解説者の言葉を借りれば、重量打線を編成したチームは同じ時期にスランプに陥る傾向もあるという。それが本当なら、今年の打線は大量得点を挙げる爆発力があるものの、連勝と連敗を重ねる危険性も秘めている。
リリーフ陣だが、「総力戦になる」という声も聞かれた。
新クローザー・久保康友に繋ぐセットアッパーの福原忍、渡辺亮、筒井和也らが「久保の負担を減らそう」と自覚しているからだそうだが、彼らは昨季、50試合以上に投げた経験からか、マイペース調整のような雰囲気も見受けられた。久保にしても、未知数の部分が多い。三振の山を築くのではなく、凡打を誘う技巧派クローザーになると思われるが、ベテランだからか、こちらも「開幕戦に照準を合わせているような雰囲気」だった。
正捕手は開幕直前まで結論が出せないのではないだろうか。生え抜きの小宮山慎二への期待は大きいが、これまで再三のチャンスを生かせなかった理由は、「集中力が持続しない悪癖」があるからだ。それを治ったかどうかを確かめる術は、実戦しかない…。藤井彰人、新加入の日高剛のベテラン勢も健在。新人の小豆畑真也だが、「ボールまわし」を見た限りでは、その強肩ぶりは群を抜いている。打撃面は苦労させられそうだが、ショートバウンドの捕球も巧く、小宮山を食う可能性はある。
野手でいちばん目立っていたのは上本博紀で、大化けする可能性があるのは、高卒2年目の投手・松田遼馬だろう。松田は「裏クローザー候補」(久保のクローザー転向が失敗したときの代役の1人)とも聞いているが、リリーフ陣のなかではいちばん速いストレートを投げていた。久保のピッチングスタイルとは対照的なだけに「8イニング限定のセットアッパー」として固定した方が、双方ともに光るのではないだろうか。
上本が良い…。昨季後半、二塁のレギュラーポジションを掴んだこの26歳がベンチスタートになるとは、もったいない限りである。