同社は大阪で天下に醜態をさらしたばかり(後述)。大西洋・三越伊勢丹ホールディングス社長には、汚名返上への焦りが見え隠れするだけに「もし名古屋で返り討ちに遭ったら目も当てられない」というのだ。
三越伊勢丹が出店するのは34階建ての高層ビルのうち地上2階から地下1階の3フロアで、広さは従来の10分の1程度。婦人服や紳士服などファッションにほぼ特化し“伊勢丹色”をアピールしたものになるという。名古屋市内には、子会社の『名古屋三越』が運営する栄店(専門館ラシックを含む)と星が丘店があり、これとの棲み分けを図る。
ただ、名古屋駅前は地元の名鉄百貨店に加えてJR東海と高島屋の合弁会社『ジェイアール名古屋タカシマヤ』が2000年3月にオープンしたのを機に、名古屋の繁華街、栄町との競争が激化している。3年前にはターミナル駅の集客力を生かしたジェイアール名古屋タカシマヤが長年にわたって“地域一番店”として君臨してきた松坂屋名古屋店を抜き、名古屋地区の一番店に躍り出た。その余勢を駆って今年1月までの34カ月間、売上高が前年実績を上回っている。アベノミクスの追い風があるにせよ、これだけ快調なペースが続くこと自体が珍しい。松坂屋や名鉄も追撃にぬかりはなく、日本有数のデパート激戦地であることには変わりがない。
しかも名古屋駅前はリニア中央新幹線の開業(2027年)をにらんで再開発が進んでおり、'17年2月には当初の計画から1年余り遅れて地上46階建ての『JRゲートタワー』が完成する。ここにジェイアール名古屋タカシマヤの出店が決まっている。開業遅れを挽回しようと初年度からシャカリキになって攻めるのは明らかだ。
そんな“名古屋の盟主”に向けたJR東海、高島屋連合軍の強力シフトに対抗すべく、三越伊勢丹が中型店の“変化球”で殴り込みをかける図式なのである。
「地盤沈下が指摘されて久しい栄町と違い、駅前立地に着目したとはいえ、自信があるならば大型店で勝負したはず。それを避け“ファッションの伊勢丹”を前面に出したのは、流行に敏感な若い女性層を取り込もうとの作戦でしょう。シニア世代を得意客とする三越栄店との棲み分けを図るといえば聞こえはいいのですが、三越勢の鼻を明かすべく、大西社長の“どうしても伊勢丹流で成功を収めたい”との焦りさえ透けてくる。大阪で大失態を演じた手前、名古屋で汚名返上しなければ大変なことになるとの切羽詰まった思いが強いのかも知れません」(業界関係者)
さて、大阪での大失態だ。今年1月末に明らかになったデパートとしては屈辱的な“看板返上”事件を指す。
三越伊勢丹HDは'11年5月、JR西日本と共同で『JR大阪三越伊勢丹』を開業した。ところが業績不振から売り場面積を半分以下に縮小、今後は持ち株会社の6割の株式を保有するJR西日本主導で、隣接する専門店『ルクア』(JR西系)と一体運営するため店名から『三越』『伊勢丹』の名称が消える公算が強まったのだ。記者会見の席でHD側は「社名は未定」としたが、JR西の関係者は「ボロボロになった以上、看板を取り替えなければ商売が成り立たない」と打ち明ける。要するに三越伊勢丹は鳴り物入りでオープンしたにもかかわらず、わずか3年でアッサリ看板を下ろすハメになったのだ。
なぜ三越伊勢丹は大阪であっけなく“落城”したのか。「あえて言えば“ファッションの伊勢丹”が大阪で受け入れられなかったことだ」と前置きして三越OBが打ち明ける。
「本来、あの店舗は経営統合前の三越が出店を決めていた。その後、三越が経営不振に陥り、伊勢丹と統合すると今度は主導権を握った伊勢丹が全面に出て同社自慢のファッション性をアピールしたものの、独自のセンスを鼻にかける悪癖が出て顧客の心をつかめなかった。体質は簡単に変えられない以上、これで名古屋でも悪癖が出るようだと強烈なシッペ返しを食らいかねません」
そんな事態になれば“ファッションの伊勢丹”のメンツ丸つぶれ。ただでさえ三越出身者との間に深い溝が指摘されている同社のこと、名古屋で討ち死にするようだと大西社長の進退問題に発展する。それどころか三越サイドには「屈辱的な統合を強いられた」の思いが強いだけに、HD解体まで突き進む可能性さえ取り沙汰されているのである。