「今夏、各球団のスカウトが注視していたのは『安楽の右肘は完治したのかどうか』でした。愛媛県大会を見る限り、その回復具合は70%といったところ。スター選手を欲している球団や、安楽に2年くらいのリハビリ期間を与えられそうな戦力豊富な球団は、先行投資で1位指名してくるでしょう」(スポーツライター・美山和也氏)
安楽の魅力は、188センチの長身からダイナミックに投げ下ろす157キロの剛速球だろう。だが昨秋に右肘を痛め、復帰戦を兼ねた今夏の愛媛県大会では、自慢のストレートは140キロ止まり。「新球スプリットをテストしているため」との情報も聞かれたが、ネット裏のスカウト陣は難しい表情を浮かべていた。
その安楽がリハビリに励んでいた間、スカウト陣の視線を集めたのが、岩手の新星・松本裕樹(盛岡大付)である。高校野球に関する著書を多く持つスポーツジャーナリスト・手束仁氏がこう評する。
「今夏、投手では松本、飯塚悟史(日本文理)、岸潤一郎(明徳義塾)の3人に注目しています。岸は完成度が一番高く、飯塚は安定感がある。松本、飯塚は打者としても高い評価を受けています。あえて順番を付けるなら、松本が一番でしょう。長身で細身だが投球フォームが柔らかい。ダルビッシュ、大谷も背が高かったが、プロに入ってから体全体の幅が大きくなりました。そういう意味で松本に伸びシロを感じます」
松本はエースで4番。球速は150キロ台半ばをマークしており、左バッターで通算54本塁打を放っている。「岩手県準決勝では西武の渡辺久信シニアディレクターも視察していました。松本が並みのドラフト候補投手と違うのは、良い意味で“不敵なところ”です。150キロ以上を放れるのに、走者を得点圏に背負うまでは70%くらいの力で投げていました。安楽が剛なら、松本は柔」(美山氏)
各球団幹部もこう評価。
巨人・山下哲治スカウト部長「軽く投げても球がグッと伸びる」
横浜DeNA・高田繁GM「直球、変化球みんな良かった。もっと力を入れて投げたらと思うと、スゴイ潜在能力を感じる」
千葉ロッテ・松本尚樹編成統括「変化球や体の完成度は、高校時代の大谷よりも上」
東北地区担当のスカウトだけではなく、球団トップが視察しているのだから、松本が今秋の目玉と見て間違いないだろう。
九州勢も“投手・松本”と張り合っている。
「大分高の佐野皓大は140キロ台後半を投げ続け、最後は150キロ強で三振の山を築く。直球で空振りが取れる投手です。福岡県大会で散ったが、西日本短大付の小野郁もいい。こちらも身体能力が高い」(美山氏)
手束氏は、北陸のドクターK・富山商の森田駿哉を推す。
「左投手で三振を奪える逸材。松井裕樹(楽天)もそうでしたが、三振を奪えるのは魅力的です。肘の使い方も柔らかい」