野田総理は、大飯原発3〜4号機の安全性は確保されたというのだが、政府が決めた暫定的な安全基準に含まれる免震重要棟の設置やフィルター付きベント装置、防潮堤防のかさ上げなどは、まだ完成していない。
暫定基準さえ満たしていないのだから、「夏場の電力不足を乗り切るために、危険を承知で再稼働する」というのが正しい表現だろう。しかし、野田総理はそうは言わなかった。
危険だと言ったら、福井県が再稼働に同意しないからだ。その点は、やむを得ないとしても、野田総理は、将来の原発の扱いをどうするというビジョンを一切語らなかった。これでは、「脱原発」を掲げた民主党のエネルギー政策はウソで、なし崩し的に原発を復活させようとしていると疑われても仕方がないだろう。
もう一つ政府がビジョンを放棄したことがある。社会保障と税の一体改革だ。民主党と自民、公明の三党は、一体改革関連法案の修正協議に入ったが、何と協議の場を社会保障と税制の2つに分けた。しかも、民主党の税制協議担当者は、藤井裕久税調会長だ。自民党の担当者は町村信孝元官房長官だが、顧問に伊吹文明、野田毅の両氏がついた。藤井裕久、伊吹文明、野田毅の三氏に共通することは、元々大蔵官僚だったということだ。また、藤井氏と伊吹氏は、かつて財務大臣まで務めている。
消費税で歩み寄る野田総理と谷垣総裁も、かつて財務大臣を務めた。つまり、今回の修正協議は、税制に関しては、財務省シンパのオンパレードで行われるのだ。これで、修正協議のシナリオが完全に見えた。合意の難しい社会保障分野の協議は棚上げにして、税制部分だけで合意して、民主、自民、公明の3党による消費税の強行突破を図るのだ。財務省が用意した消費税引き上げへの筋書きは、見事というしかない。
しかし、冷静に考えてみると、この筋立ては、いかにもおかしい。政府は社会保障と税の一体改革をするのだと言ってきた。社会保障を維持拡大していくためには消費税の引き上げがどうしても必要だと国民に説明してきたのだ。にもかかわらず、社会保障を棚上げにして、消費税率だけを上げるというのは、詐欺に近い。このまま行けば、2014年の消費税率の引き上げと同時に日本経済は、恐慌に突入するだろう。
それを防げる可能性は、ゼロではない。国民の多くが、消費税率引き上げの本質に気付き始めている。もし、次期総選挙で、あるいはその後に、橋下市長率いる第三極と民主党の小沢・鳩山グループが手を組んで政権を掌握することができれば、法案成立後であっても、消費税引き上げを止められる。反官僚という点で橋下氏と小沢氏は立場が共通だし、橋下氏は民主党を倒すとした旗をすでに降ろしている。
もちろん、これまでに指摘したように橋下独裁政権はとても危険だ。だが、これだけ日本が財務省に支配されてしまうようになると、その体制を変えるためには、もう毒をもって毒を制するというやり方しかないのかもしれない。