口腔がんの中でも半数以上を占める舌がん。発症する性別と年代別のデータでは、50代以上の男性がかかりやすいという。
堀さんが最初に舌の裏側の口内炎に気づいたのは昨年夏。なかなか治らないため、11月にかかりつけの歯科医を受診した。レーザー治療などを受けるが、ほどなく舌の左の側面にも腫瘤ができる。その後、リンパ節にも転移していることが分かった。舌がんは発見が遅れると、すぐに病気が進んでしまうのだ。ステージⅣというと、5年生存率が45%と半分を切る。
〈私は負けません。力いっぱい闘って、必ず戻って来ます。そして再びファンの皆様の前で、歌が歌えるようになりたい。その為にも頑張って、治療に専念させていただきます〉
堀さんはブログでこう綴り再起を宣言した。
肉親がステージⅣの舌がんを患い、舌の5分の4を切除、臀部の皮膚を移植した人に事例を聞いた。
「“食物を味わうという欲望は諦めてください”と医師に告げられました。舌で物の味覚を感じるのは舌先から中ほどまで。食欲を満足させられないのは当然ですが、飲み込むこともままならない。いや、それだけではありません。堀さんは歌を歌いたいというが、発声はともかく、舌を動かせないんだから相手に分からせる言葉を発するのは到底無理だと思いますね」
食欲も人前で見せるパフォーマンスも諦めざるを得ない…。一概には言えないが、舌がんの経験者によれば、絶望的な前途が待ち受けているというのである。
世田谷井上病院の井上毅一理事長もこう指摘する。
「舌がんは口腔がんの中では最も多いが、たとえ手術を行っても予後がよくないんです。手術で患部は取れるが、再発することが多い。ちなみに、放射線療法が効果的との報告もあります」
それにしても、なぜ堀さんの舌がんは進行が速かったのか。
「喫煙者の口腔がんの発生率は、タバコを吸わない人に比べて2倍以上も高いといわれています。口腔がんで亡くなった大相撲の二子山親方(元大関貴ノ花)、舌がん手術した石原裕次郎さんも、自他ともに認めるヘビースモーカーでした」(医療関係者)
舌がんのリスク要因は喫煙だけではない。女性は男性に比べ喫煙率が低く、飲酒量も少ない傾向にある。国立がん研究センターによると、飲酒&喫煙する人は、そうでないグループと比べて口腔がんの発症リスクは2.5倍もあるのだ。
「それに加えて、義歯です。合わない義歯が舌に当たって、その刺激で舌がんになるといわれています」(前出・井上理事長)
2013年、日本では『アルコール健康障害対策基本法』という法律が制定されている。
山梨大学医学部名誉教授の田村康二氏が語る。
「ワイドショーを見ていましたが、舌がんのリスク要因が酒とタバコにあると伝えていた報道はありませんでした。しかし、世界的に見て酒やタバコを止めようという機運が高まり、WHOの中にも、そうした運動が起こっているんです。堂々とビールや酒のテレビCMを流しているのは日本だけ。欧米や中国ですらやっていません。来年は東京オリンピックイヤーです。人前でタバコを吸うことができなくなったように、野放しの酒のCMにも歯止めがかかるかもしれませんね」
(明日に続く)