「日本人の死亡者の36%はがんによる死です。それに対して欧米では25%。日本は世界中で突出してがんの死が多い。これについてWHOは、日本の医師がX線診断やCTをやり過ぎるからだろうと忠告しています」
こう語るのは、山梨大医学部名誉教授の田村康二氏である。
「OECDによると、1年間に病院に通う日数を各国で調べたところ、日本は13.4回でトップ。福祉先進国と言われるスウェーデンですらわずか2.8回でした。無用に医療機関に行き過ぎるのです。健康保険の赤字は平成23年度5782億円で、健保組合の89%は赤字となっている。これでは、医療費で国は破産してしまうでしょう」
日本の医療は、すべてではないものの乱診、乱療がやり放題の場合がある。田村氏は検査漬け、薬漬けではない医学的根拠をもとに医療は行われるべきだと主張する。
アメリカでは検査や治療を、やった方がいいか、やらない方がいいかを公的に判定して、その情報を患者に提供しているという。
「たとえば、前立腺がん診断のPSA(前立腺特異抗体)の定期検査は日本と異なり、米国がん協会では推奨していません。検査法の有用性が小さく、保険財政を圧迫しているからです。女性の乳がん検診のマンモグラフィーなどもその例で、米国予防サービス委員会は40代の女性には推奨せず、と勧告しています」(田村氏)
だが、がん検診は受けた方がいいと素人は考えがちだ。
たとえば、胃の検診などはその代表例だろう。田村氏はこう解説する。
「ピロリ菌が胃の中にいなければ、胃がんや胃潰瘍になった例はありません。したがって、胃がんを恐れるならば、まずピロリ菌が胃の中にいるかどうかを調べてもらって下さい。もしいれば、抗生物質で菌を殺せばいい。菌がいなければ、胃の内視鏡検査は行う必要がありません。また、大腸内視鏡は75歳以上、もしくは過去10年以内に大腸に問題がなかった場合にはしないよう、米国の専門家たちは勧告しています」
こう聞くと、毎年、人間ドッグに入って、内視鏡検査を受けていた人は驚くに違いない。
また、やめることによって患者側の肉体的、並びに経済的な負担は激減すると田村氏は指摘する。