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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第35回 安全保障の問題

 国民の安全を脅かす「敵」、あるいは「非常事態」は、何も外国の侵略ばかりではない。東日本大震災に代表される大規模自然災害、あるいは「インフラの老朽化」もまた、国民の安全を脅かすのだ。

 国土交通省が日本全国の橋梁(地方自治体管理分含む)を調査した結果、およそ40%以上に当たる5万8000カ所余りが、今後、何らかの補修が必要であることが判明した。
 日本の各都道府県や市区町村が管理する長さ15メートル以上の道路の橋は、およそ14万4000カ所ある。この内、老朽化あるいは災害の影響で、補修が必要と判断された橋は、およそ6万9000カ所に上ったのである。もっとも、補修が必要な橋の内、1万カ所は本年4月までに補修工事を終えている。とはいえ、残りの約5万8000カ所、地方自治外が管理する橋全体の41%については、補修が実施されていない。
 ちなみに、昨年5月から今年4月までの1年間で、老朽化、災害の影響で通行規制がかけられた橋は、全国で116基に上る。すでに通行が不可能な橋梁が次々に出てきているのである。

 日本の公共インフラは、主に高度成長期に建設された。橋梁などの公共建造物は、別に無限に使えるわけではなく、建造後およそ50年経つと、大々的なメンテナンスが必要になる。
 高度成長期から50年後といえば、いつになるだろうか。ずばり2010年代、すなわち「今」なのだ。

 さて、国家とは、強大な「非常事態」に個人で対処しきれないことを受け、過去の人類史において進化してきた共同体である。もちろん、共同体のあり方は地域、国ごとによって異なる。実のところ、アメリカ国家と日本国家では、同じ「国家」という単語を使っていたとしても、異なる共同体なのだ(あちらは連邦国家であり、人工国家でもある)。
 いずれにせよ、国家最大の役割が「国民の安全保障の確立」であることに変わりはない。そして、安全保障が「何」の脅威から国民を守ることを意味するかと言えば、前述の通り「外国からの侵略」「大規模自然災害」に加え、「インフラ老朽化」も含まれるのだ。

 特に、インフラの老朽化から国民を守る「安全保障」は、二重の意味で重要である。
 一つ目は、文字通りインフラの老朽化を放置すると、国民に危険が及ぶためだ。国民が危険にさらされているのを放置しているのでは、そもそも国家など不要だ。昨年12月の中央自動車道笹子トンネルの事故でもわかる通り、国民の身体に直接的な悪影響が及ぶのである。
 そして二つ目は、インフラが老朽化し、崩壊した国において、企業がビジネスを展開することは不可能という問題だ。

 インフラ老朽化を放置しておくと「必ず」経済活動にマイナスの影響を与え、国民が貧しくなる。国民の所得が減り、貧困化すると、国民一人一人も困るが、政府は税収を上げられなくなる。
 政府の税収は国民の所得から徴収されるのである。政府の税収が減ると、インフラのメンテナンスはもちろんのこと、「外国」「大規模自然災害」への対処すら不可能になってしまう。いわば、間接的な悪影響だ。
 さらに、国民が貧しくなるのでは、そもそも政府の目的である「経世済民」を果たせないということになる。

 まさに、現在の日本は、「外国からの侵略(中国という仮想敵国の存在)」「大規模自然災害の脅威(南海トラフ巨大地震、首都直下型地震)」「インフラの老朽化」という、三つの安全保障の問題をまとめて抱えてしまっている。
 ここで対処を誤ると、日本国家という共同体は維持不可能になってしまいかねない。

 そもそも、上記三つの脅威からの「安全保障」の確立は、インフレ期だろうがデフレ期だろうがやらなければならないのだ。インフレ期であろうとも、安全保障の危機が高まったならば、政府は国債発行だろうが通貨発行だろうが、とにかく財源を確保して対処しなければならない。敵国の艦隊が首都東京に迫っているような状況で、
 「すみません、インフレ期なので国債発行や通貨発行はできません」
 などとやっていた日には、普通に国が亡ぶ。安全保障の確立は、インフレ率抑制よりも優先順位が高い。

 ましてや、現在の日本はデフレである。デフレの国では、政府がおカネを使い、インフレ率を押し上げなければならない。
 そんな時期に、日本は上記三つの「安全保障の問題」を抱えている。これは我が国が、「神様に愛されているのではないか」と勘違いしたくなるほど、本来なら幸運なのだ。

 もちろん、デフレという「最強の財源」を持っていたとしても、政府が安全保障の確保に動かなければ、どうにもならない。そして、政府を動かすには、国民の声として、
 「政府は経世済民という目的を達成するために、三つの安全保障の問題の解決に努めよ」
 という声を上げなければならないのである。

 何しろ、我が国の政府は橋本政権以降、小渕政権、麻生政権という二つの例外を除き、毎年、自民党政権も民主党政権も、共に公共事業費を減額してきた。結果、我が国の建設事業者はピーク期からすでに20%も減ってしまった。
 このままでは、政府が「インフラ老朽化」に本格的に対処しようとしても、建設事業者側が対応できないという事態になりかねない。というより、すでになりつつある。
 事態は読者が考えている以上に深刻なのである。

三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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