(1)評価の高い技術−−バットの先で打たせる変化球
マエケンは打者を追い込むと右打者には外角にスライダー、左打者には外側にツーシームかチェンジアップを投げ込んでくる。どちらも外側に逃げる軌道になるため、打者が打ちに行くとバットの先っぽに当たって凡ゴロか凡フライになる。この強い打球を打たせないテクニックは一部のアナリストから絶賛されている。
(2)評価の高い球種−−スライダー、フォーシーム、チェンジアップ
マエケンは米国でもスライダーを高く評価されている。野球データサイト・ファングラフスが掲出している球種別の評価を見ると、スライダーはメジャーの先発投手(規定投球回数以上)63人中4位にランクされている。
意外なのは、スピードが145キロ前後しかないフォーシームが「上」レベルと評価を受けていることだ。これはフォーシームを高めに、変化球を低めに投げ分けて、打者の目線を狂わすことに長けているからだ。チェンジアップは使用頻度が9%程度だが、左打者のタイミングを外す道具として機能しており「上」レベルの評価を受けている。
逆に、評価が低いのはカーブ。メジャーに来てからタイミングを外す道具、目線を狂わす道具として重宝し、日本時代より使用頻度を大幅に増やしている(19%)。しかし、抜けて甘く入るケースが頻発するため評価が低く、前出のファングラフスの球種評価でも、先発投手80人の中で78位だ。
(3)魔の3まわり目
マエケンの評価が今一つ高くならないのは、1まわり目、2まわり目は完ぺきに抑えるのに、3まわり目に入ると、とたんに打たれ出すからだ。これは数字にも表れていて、マエケンは1まわり目の被打率が1割7分6厘、2まわり目は1割9分9厘だが、3まわり目になると3割4分4厘に跳ね上がる。そのため最近は3まわり目に入るとヒットを1本打たれたところであっさり代えられてしまうことが多くなった。
(4)「新人王」になれるか?
マエケンは球団と、新人王に選出されると5万ドル(520万円)のボーナスが出る契約を結んでいるが、選出される可能性は極めて低い。
ナ・リーグは今季、いつにないルーキーの当たり年。新人王争いはオールスターにも出場したドジャースのシーガー弟とカージナルスのアレドミス・ディアズの大型遊撃手同士の一騎打ちの様相を呈している。
投手はマエケン、マッツ(メッツ)、デイヴィース(ブリュワーズ)、グレイ(ロッキーズ)が横一線で並んでいるが、シーガー、ディアズの2人には歯が立たない。
ただマエケンがシーズン終盤に踏ん張り、防御率を2.80くらいまで戻せば、新人王選考の最終候補(3人)に入る可能性が出てくる。
(5)ポストシーズンで活躍する可能性は?
大いにある。今季ドジャースは前半、得点力不足で勝ち星が伸びず、ライバルのジャイアンツに前半終了時点で6.5ゲーム差をつけられていた。しかも、6月下旬に大エースのカーショウが肩痛で戦列を離れたため、ジ軍が独走態勢に入ると思われた。
ところが、ジ軍がシーズン後半に入ってよもやの失速。ゲーム差は8月3日現在1.5ゲームに縮まり、ド軍にも地区優勝する可能性が5割くらい出てきた。今後カーショウが復帰すれば、ド軍に一気に流れが傾くかもしれない。
ポストシーズンでは、先発投手を3人で回すので、4、5番手はリリーフに回る。マエケンは現在1番手扱い。カーショウが復帰しても2番手に下がるだけなので、先発で起用され、活躍する余地は大いにある。
(6)2016年度の総支給額
マエケンの年俸は基本給が300万ドルで、出来高が1015万ドルを上限に設定されている。このまま故障なくシーズンを終えると、マエケンは先発試合が30、投球イニングは190回前後になると思われる。
契約内容を見ると出来高は先発試合数と投球イニング数の2本立てになっていて、イニング数は90イニングから190イニングまで10イニング増えるごとに25万ドルが加算される。190イニング投げれば、出来高は275万ドルになる。
先発試合の方の出来高は15試合で100万ドル、20試合で200万ドル。25試合で350万ドル、30試合で500万ドル、32試合で650万ドルが支給される。マエケンは30試合の先発となる可能性が高いので、こちらの出来高は500万ドルになる。
イニング数の275万ドルと合わせると出来高の合計は775万ドル。これに基本年俸300万ドル、開幕ロースターに入っていると支給される15万ドルのボーナスを合計すると、マエケンが今季ドジャースから受け取るカネの合計は1090万ドル(約11億円)になる。
ともなり・なち 今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は大リーグ関連の記事を各媒体に寄稿。日本人大リーガーにも愛読者が多い「メジャーリーグ選手名鑑2016」(廣済堂出版)が発売中。