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世紀の茶番劇 米朝首脳会談「決裂」全シナリオ

 およそ11年ぶりに行われた南北首脳会談だが、最大の焦点である非核化問題では、金正恩党委員長は「完全かつ検証可能、不可逆的な核廃棄」(CVID)に全く言及しなかった。“板門店宣言”におけるCVID関連の文言はすべて曖昧な表現にとどまっており、北朝鮮が時間稼ぎに韓国を最大限に利用しているという疑いを払拭できていない。

 北朝鮮は10年前、寧辺原子炉の冷却塔爆破の映像を世界に向けて発信しながら、裏では核開発を続けてきた“前科”がある。正恩委員長はつい4カ月前まで「核ボタンが私の机の上に常に置かれている」と日米韓向けの威嚇もしていた。また腹違いの兄(金正男)を暗殺し、叔母の夫(張成沢)を高射砲で吹き飛ばし、何の科もない庶民を政治犯に仕立て上げ強制収容所に送り込む人権弾圧の張本人だ。
 それだけではない。李明博政権が発足して半年もたっていない2008年7月、北朝鮮はリゾート地の金剛山を観光に訪れた韓国国籍の女性を越境したとして射殺し、'10年3月には韓国海軍の哨戒艦『天安艦』を撃沈させ、40数人の若い乗組員の命を奪った。

 韓国はこれら犯罪の当事者でありながら、正恩委員長を不問に付したのだ。
 「北が核実験場の破棄やミサイル実験中止をいくら説こうが、核兵器の破棄ではありません。このシンプルな事実を忘れてはならないのです。米ブルームバーグによれば、《北朝鮮の外貨は今年の秋で底を突く可能性がある》ということです。北としては外貨の枯渇や制裁による影響が本格化しないうちに手だてを講じておく必要があったわけで、そこで昨年末から経済立て直しの突破口を開くために韓国に急接近を図ったのです。南北会談はこうした正恩委員長の戦略に、文在寅大統領が乗ったようにしか見えません。板門店宣言が現実化すれば、経済制裁は無力化されますからね」(北朝鮮ウオッチャー)

 注目すべきは北朝鮮が、核攻撃を受けても反撃できる潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM=北極星)の発射実験を5回以上行っており、それを搭載できる2800トン級の大型潜水艦を年末までに完成させると明言していることだ。
 「SLBMによって第2撃能力(核報復)が可能となり、米国は先制攻撃の意図を砕かれるので、北を核保有国として認めざるを得なくなります。ですから北は、年末までの時間稼ぎをしたいのです。北の機関紙『労働新聞』も《米国の誘惑と軍事的恐喝によって銃床を下ろすことが、どれほど残酷な結果を招くかはイラクとリビアの悲劇的現実が物語る》と報じている。これは、中国が主導した6カ国協議で、朝鮮半島の非核化と平和構築について明文化した'05年9月の共同声明に盛り込まれた《約束対約束、行動対行動で段階的な非核化に進み、これを履行すれば核廃棄は実現可能》という部分を持ち出し、日米韓もこれに同意していたではないかというメッセージに他なりません。これに対して米国は、いきなりのCVIDの実行、IAEA(国際原子力機関)の査察受け入れを要求するものと思われます。これを北が突っぱねれば、たちまち交渉決裂となり、トランプ大統領がカッとなって『軍事行動だ』と言い出す可能性も出てくる。そこまでいかなくても、米海空軍を使って海上封鎖を実施するくらいのことはやるでしょう」(アナリスト)

 駐豪大使に指名されていた日系人初のハリス太平洋軍司令官が急きょ、駐韓大使に起用される見通しになったのも不気味だ。「米軍はいつでも動ける」という北へのプレッシャーとも受け取れるからだ。
 とはいえ、トランプ大統領の頭の中は11月に行われる中間選挙でいっぱいであることも確か。しかも、切り札の一つだった空爆カードを“世紀の南北会談”で取り上げられ、目算が狂ってしまった。だから、どうしても非核化を実現し、自分たちの功績としたい。
 「その非核化の落としどころですが、即時核廃棄や即時NPT(核兵器不拡散条約)復帰、IAEAの査察受け入れというところまではいかないのではないか。トランプ大統領が北の段階的廃棄を渋った場合、正恩委員長は保管している核兵器を『10年先の破棄を約束する』と言い出すかもしれません。鬼も笑う話ですが、今年11月に中間選挙を控えているトランプ大統領は、北側の譲歩として評価し、受け入れるかもしれない。つまり正恩委員長は“非核化を約束するフリ”をし、アメリカはこれを“前進”と評価するという茶番劇となる可能性が高い。また、アメリカ・ファーストですから、まず自国にICBMを向けないことを条件にすることも考えられます。これは南北会談に先立ち訪朝したポンペオCIA長官(現国務長官)が『北朝鮮のレジームチェンジは考えていない』『米国に到達し得るICBMと、そうでない中短距離ミサイルの取り扱いを区別する』と示唆したことからも十分考えられます。こんな米国と南北による“猿芝居”が行われれば、頭を抱えるのは日本だけとなるのです。すでにノドンは日韓を射程内に捉えていますが、一方の当事者の韓国は将来の南北再統一という長期的視点から見て、日本に向けられているノドンはどうでもいいのですから」(軍事ジャーナリスト)

 歴史上初めてとなる米朝首脳会談の後、世界に向けてアナウンスされるのは、「どちらの側も勝利した」という予定調和の結末だ。

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