しかし、本当にそうなるのだろうか。平年ベースに直すと、消費税率10%への引き上げは、5兆円あまりの税収増をもたらす。
一方で、食料品や新聞の消費税率は据え置かれるから、軽減税率にともなう減収は1兆円になる。また、増税分を財源に幼稚園や保育園、非課税世帯の大学無償化などに2兆円を投じることがすでに決定。さらに、増税後の景気の失速を防ぐため、ポイント還元やプレミアム商品券の発行など景気対策に2兆円が使われる。
ここまでで、5兆円の増収と5兆円のコスト増だから、増税の財政健全化効果は消滅する。ところが、それだけでは済まない。
12月14日に与党が決めた税制改正大綱の目玉は、自動車減税と住宅減税だ。自動車は、所有者に毎年かかる自動車税を最大4500円減税する。一方、住宅に関しては、増税後から’20年末までに契約して入居する購入者を対象に、住宅ローン減税の期間を3年延ばして13年にする。現在の住宅ローン減税は、住宅ローンの借入残高の1%を10年間還付しているが、それに加えて11年目以降、建物価格の0・67%を3年間にわたって減税する。消費税増税分を丸々減税に回す格好だ。
しかし、ここに巧妙なカラクリがある。こうした住宅減税強化のツケが政府に回ってくるのは、11年先のこと。だから、来年度予算には反映されないのだ。
また、以前から決められていた消費税引き上げ対策も財政負担となる。例えば、父母や祖父母から住宅取得資金の贈与を受けた場合の非課税限度額は、省エネ等住宅の場合、現行の1200万円が、消費税率引き上げ後は、一気に3000万円まで拡大される。一部の富裕層しか使えない手だが、大幅な減税になる。ところが、その減税が財政負担になるのは、ずっと先だ。住宅資金を贈与した親が死んだときに、相続財産が減るという形で、相続税の減収につながるからだ。これも、将来の話だから、来年度予算には一切、反映されない。
こうしたことを考えると、消費税率の引き上げで財政赤字が減る本当の効果は、きわめて限定的だ。
まやかしは、まだある。財務省は、軽減税率導入に伴う減収分のうち2400億円をタバコの増税で手当するとしている。これも、形式的には正しくても、実際には大きな間違い。タバコを増税すると喫煙者が減るので、税収は増えないからだ。実際、瞬間風速はともかく、これまでタバコの増税で、税収が増えた歴史は一度もない。
ただ、財務省はそうしたことを一切言わない。もし消費税増税で財政健全効果がないとしたら、「それなら、なぜ増税をするのか」という話になってしまうからだ。
軽減税率の複雑な線引き、ポイント還元のために伴うクレジット会社に支払う手数料など、消費税増税は中小小売業の負担を一気に増やす。そうしたことへの批判が高まることを考えると、やはり、土壇場で安倍総理が、増税凍結宣言をする可能性が高いのではないか。