被害が拡大した最大の要因は、停電が長引いたこと。地震直後から北海道全土で停電が発生し、丸2日近く続いた。そのため市民生活が混乱するだけでなく、物流などの流通業、観光業、製造業などに大きな影響が出たのだ。例えば、トヨタ自動車は、北海道の工場で製造する部品の供給が途絶えたため、停電が解消した9月10日に、日本全国の工場の操業停止に追い込まれた。
日本では、絶対に起きないと言われた大規模停電(ブラックアウト)がなぜ発生したのか。実は、北海道では原発が再稼働されておらず、道内の電力のおよそ半分を震源地に近い苫東厚真火力発電所に依存していた。地震でこの発電所が停止すると、残りの発電所に大きな負荷がかかる。そのまま運転を続けると、負荷の大きさに耐え切れずに設備が壊れてしまうため、他の発電所も自動停止したのだ。
日本でブラックアウトが起きないと言われてきた一つの根拠として、電力会社間の電力融通があった。北海道の電力が足りなくなれば、東北電力から電力が送られる。実際、60万キロワットの電力が送られる連携システムができていたが、これが直流電流で、道内に交流変換するための電力がなかったため、まったく機能しなかったのだ。
しかし、冷静に考えれば分かるように、他の火力発電所や水力発電所は生きていたのだから、その電力を使って東北電力の電力融通を受けたうえで、発電量に見合う需要の地域に限定して電力供給をすれば、ブラックアウトは避けられた。その後は、必要なら計画停電を実施して、順繰りに一定時間ずつ電力を供給していけばよい。そうすれば、電気の通っている時間にスマホの充電ができるし、冷凍品が腐ってしまう事態も避けられただろう。
そうした対応を北海道電力ができなかったのは“苫東厚真発電所の停止”という事態を、事前に想定して準備をしていなかったからだ。その意味で、今回のブラックアウトは、一定程度、人災の側面もあったということだ。今後、大規模かつ広域の地震が起きた場合には同様の事態が発生する可能性は十分あるのだから、各電力会社は、これを教訓にした準備を進めるべきだ。
一方、個人のレベルでもできることがある。今回の大規模停電で大きな被害を受けなかったのは、太陽光発電と蓄電装置をセットで導入していた家庭と、PHV(プラグインハイブリッド)の車を持っていた家庭だ。PHVは、いざというときにはミニ発電所として、自宅に電力を送ることができるため、車にガソリンが残っている限り、停電の影響を受けないのだ。
また、生活のための電力が無理でも、スマホの充電ができるだけで、状況はがらりと変わる。今回、札幌市役所のスマホ無料充電に大行列ができたことからも、いまやスマホの充電確保が決定的に重要になっていることは明らかだ。そのため、モバイルバッテリーや乗用車のシガーソケット用充電アダプターの準備など、小さなところから地震への備えをしておくことが重要だろう。