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本好きのリビドー(255)

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提供:週刊実話

『総理の女』 福田和也 新潮新書 780円(本体価格)

★10人の総理の正妻、愛妾を総チェック

 “三本指の男”といえば横溝正史の「本陣殺人事件」冒頭を彩る怪人物だが、“三本指の女”となると筆者の世代などは反射的に’89年、在職日数69日という超短命に終わった宇野宗佑内閣を思い出してしまう。

 指を三本握らされ、「月にこれ(30万で愛人に、の意)でどうだ」と過去に迫られた…と時の首相を雑誌に告発した女は元芸者だったが、以降、平成の世で派手な女性スキャンダルは橋本龍太郎総理が中国の女スパイとの密通説を囁かれた以外はほぼ皆無。その点、初代の宰相、伊藤博文は凄かった。彼の妻でやはり元芸者の梅子夫人も偉かった。

 なにしろ、“コレしか道楽がない”とばかり女遊びに耽る夫を徹底して支え、常に新しく夫の傍らに侍る女性たちに直接労いの言葉をかけたというから同じ水商売出身でもえらい違い。その伊藤に始まり東條英機に至るまで歴代総理の政治家としての力量や識見、人間性を女性関係を糸口にして眺める本書。歴史を裏口から覗き見るようだ。

 とりわけ抜きん出て感動を誘うのは海軍近代化の父と呼ばれた山本権兵衛と、若き日の彼が身を挺して遊廓から救い出し生涯を添い遂げた登喜子夫人のエピソードだろう。遊女だった自らの素姓を恥じてあまりきらびやかな席には遠慮して出たがらず、しかし、自己研鑽を怠らなかった彼女を、自分の乗り組む軍艦に案内する際にはその履物をそろえた山本の姿を、“昭和の戦前まで女性に人権はほとんどなかった”などとほざく輩に見せつけてやりたいもの。

 同じく明治の元勲の妻たちを連作短編で描く山田風太郎『エドの舞踏会』と、昨夏まで小林吉弥氏が本誌連載の『天下の猛妻―秘録・総理夫人伝―』と併せ読めば、尚一層興味深い。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】

 ニュースで報道しない日はないほど、こうした事故が増えている。高齢者の運転による交通事故だ。ここ1〜2カ月の間も頻発している。

 すでに1年前、そうした事故の問題の核心に迫った新書が出ていた。タイトルはそのものズバリ『高齢ドライバー』(文春新書/830円+税)。事故を起こす高齢者を「老人だから」とひとくくりにできないから、問題の解決は難しいと指摘している。

 つまり「年齢より個体差」が難題ということ。脚が悪い、疾患を抱えているという高齢者が事故を起こす例もあるが、身体や精神に何ら支障もなく、薬も常用していない人が、ある日突然“加害者”になり得ることもある。

 また、地方では過疎化が進み、ローカルバスや鉄道の赤字路線が次々と廃止されている。子どもや孫と同居していない老人たちは、買い物や通院にも自ら車を運転して行くしかない。そんな状況下、「高齢者から免許を取り上げろ」と安易に叫ぶことが、どれだけ不毛であるか…。

 だが、本書は問題解決の希望はあると説く。例えば、自動ブレーキの開発・普及。国による法律の整備より、自動車メーカーの技術開発で解決の糸口を見出すということ。バスや鉄道に代わる輸送代替え手段を、自治体が整備する方法もある。

 もちろん、それでも万全ではない。事故が全くゼロになるワケではない。だが、いずれは我々も直面する“老いと運転”という問題を自分のこととして考える契機となる1冊だ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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