この連載を読んでくださっているあなたは、どんな名前ですか? あだ名で呼ばれてますか? それとも、とても珍しい苗字で、名刺を渡すたびに盛り上がるんでしょうか? ちなみに私は、珍しい苗字の方に会うとすごくテンションが上がります。今までの一番のヒットは、「野さん」です。
とにかく、みんな必ず持っている苗字や名前。親がどんな気持ちでつけたのでしょうか。私は正直、自分の本名が苦手。だから“LiLiCo”になったのです。
今回、ご紹介する映画の主人公、津田寛治演じるキャラクターは、さまざまな名前を使い分けています。本当の自分を隠し、誰かになりきって、その人と一緒にいると、周りも居心地がよくなる。本当の自分が孤独だからこそ、誰かになりきることで自分もどこか満足感に浸れる。そんなことを思わせてくれる作品です。
主人公の元に、いかにも自分のことを知っているかのように振る舞う、見ず知らずの若い女性が突然現れたら混乱しますよね? そう、ちょっとしたミステリアスな感じ。ただ、見ているこっちも女性の正体を暴きたい気持ちだけど、途中でそんなこと、どうでもよくなり、この2人の切ない人生にふんわりと揺られ、そのまま暖かく結末を見守ってしまいます。
この突然現れた女性は、主人公を「お父さん」として接します。自然に、そんな気持ちが芽生えたのでしょうか、彼女は初めて大人からの愛を感じたのかもしれません。その女性は娘を“演じる”ことで、男を助けるだけでなく、自分も安心し、居場所を見つけるのです。そんな2人の間に流れる、とても素敵な空気感をぜひ味わってほしい。
それにしても、主人公を演じる津田寛治って素敵な名前ですよね。もちろん、それ以上に演技力が素晴らしい。今回は孤独、そしてちょっぴりミステリアス、今までしたことに後悔を感じながらも優しい男を演じています。どんな役も何の違和感もなく演じきる。私との共演シーンはなかったものの、ともに出演した映画『ニワトリ☆スター』の最悪の人間を演じた彼も素晴らしかった。アイスを舐めるシーンが気持ち悪くて、あれから私は1本もアイスを食べてないくらい! 毎回、その役の過去まで背負って演じる津田寛治を、私は永遠に役者として愛し続けます。そして、自分の出演した作品を心から思う強さ、津田さんの人間としての深さ…。たまにはこういう作品を見て“自分”を考える時間を作りたいと思います。
画像提供元
(C)2018映画「名前」製作委員会
■『名前』
監督/戸田彬弘
原案/道尾秀介
出演/津田寛治、駒井蓮、勧修寺保都、松本穂香、内田理央、池田良、木嶋のりこ、金澤美穂ほか
配給/アルゴ・ピクチャーズ
6月30日(土)より新宿シネマカリテ他全国公開。
経営していた会社が倒産し、茨城にやってきた中村正男。さまざまな他人の名前を周囲に偽って使い、体裁を保ちながら自堕落な暮らしを送っていた。ある日、素性がバレそうになり窮地に陥っていた正男のもとへ、彼を「お父さん」と呼ぶ女子高生・葉山笑子が突然現れる。笑子のペースに振り回されながらも、親子のような生活に束の間の平穏を見出す正男。しかし、笑子がある事情から正男のことを、自分の生き別れた父親だと思っていることに気づき、自分の消してきた過去のことを考え始める。
LiLiCo:映画コメンテーター。ストックホルム出身、スウェーデン人の父と日本人の母を持つ。18歳で来日、1989年から芸能活動をスタート。TBS「大様のブランチ」「水曜プレミア」、CX「ノンストップ」などにレギュラー出演。ほかにもラジオ、トークショー、声優などマルチに活躍中。