「消費税が現在の5%に引き上げられた1997年、このときはスーパー各社が還元セールを競い合い、1万円の買い物で500円の商品券を配布するなど爆発的な消費喚起を呼び、売上高が大幅に伸びました。今回、政府がそれさえも封印して消費税引き上げにまい進するのは、このままだと国家財政が破綻しかねないとの深刻な危機感の裏返しに他なりません」
とはいえ、消費税引き上げは消費マインドを急速に冷やす。過去の還元セールは、それを少しでも軟着陸させようとの業界の知恵だったが、目先の税収確保に汲々とする政府=財務省には、景気動向に気配りを示すだけの余裕がなくなったことを意味する。
道理で国会に提出した法案は「大手小売に商品を販売している中小企業が、消費税増加分を価格に上乗せしやすくすることが目的」とうたっているわけだ。さらに言えば、10%引き上げから1年半後の2017年3月までという時限立法なのである。この間、景気が奇跡的に回復すればともかく、景気失速の負の連鎖に陥るようだと、政府=財務省の思惑に付き合わされる我ら国民はたまったものではない。
「確かに還元セール禁止には現時点で罰則がないといっても、そこはシタタカな財務官僚のこと、公取委と税務署をフル活用し、政府の意向に背く小売業者を締め上げる腹づもりでしょう。だからスーパーにとっては『お上の意向に逆らえば、どうなるかわからないぞ』と踏み絵を迫られたに等しい。一部には『掟破りは名前が公表されるだけで宣伝になる』との見方もありますが、公取委と税務署から徹底的にマークされたら大半の小売業者は悲鳴を上げますよ」(流通業界筋)
来年4月に消費税が8%に引き上げられれば、消費は確実に冷え込む。その際、自衛策としての企業努力=“還元セール”を封じ込めるなどとは、まるで社会主義国の価格統制だ。
「しかし、そんな国民の声に耳を貸す輩じゃありません。目的のためには手段を問わないという点では、日本企業を散々食い物にした青い目のハゲタカファンドといい勝負です」と、大手証券マンは喝破する。
「ここ最近のキーワードは『ドサクサに紛れて』です。政府はTPPの一方で、日中韓FTAや欧州とのEPA交渉を同時進行で進め出した。おかげでTPPが日本の将来にどんな悪影響を与えるかがわかりにくくなってきた。消費税の還元セールを禁じるのだって、小売業者には余計なお世話でしかありません。消費不況で野垂れ死に寸前だというのに、国家の破綻阻止に協力する理由はないのです」
折しもスーパーの売上高は、今年の2月まで12カ月連続で前年割れが続いている。そこにトドメを刺すような今回の政府の決断は、まさに“自殺行為”と言わざるを得ない。