経常収支というのは、貿易収支とサービス収支、そして所得収支の合計で、日本がモノ作りや国際輸送などのサービス、さらには投資などで、全体として海外に対してどれだけ儲けたのかを示す数字だ。経常収支が黒字ならその分対外純資産が増え、赤字なら減っていくことになる。
経常収支の黒字が重要なのは、国債の評価に直結するからだ。日本が大量の国債を発行しながら低金利で済んでいる理由は、経常収支が黒字だからだとするエコノミストが多い。家計でも、黒字を出していれば、借金を返済する能力があると信じてもらえるが、赤字を出し続けていたら、すぐに借金を返せと取り付けにあってしまうだろう。
だから、経常収支が2カ月連続で赤字になったというのは、かなり深刻な事態なのだ。そこで、昨年12月の経常収支を2年前の12月と比較してみよう。2年前は単月で1兆2606億円の黒字だったのが、昨年12月は2641億円の赤字となっている。経常収支は1兆5247億円も悪化したことになる。そのうち1兆3311億円は、貿易収支の悪化によってもたらされている。
そこで悪化した要因をみると、2年前と比べて、輸出が7840億円減り、輸入が5470億円増えている。輸出の減少は、中国での日本製品の不買運動もあるが、基本的には円高が原因だから、今後、為替を円安に誘導していくことができれば、ある程度の回復は見込める。
問題は、輸入の方だ。輸入は、円安が進んでも、減らないどころか、逆に増えてしまう可能性があるのだ。その理由は、エネルギーにある。
財務省の貿易統計でみると、昨年12月の鉱物性燃料の輸入額は、2兆1818億円で、2年前よりも5363億円増えている。この増加分は、ほぼ輸入額全体の増加に相当する。つまり、日本の輸入額が増えたのは、ひとえに原油や天然ガスなどの鉱物性燃料の輸入が増えたことが原因なのだ。
原油や天然ガスは、ほぼ全量が輸入だから、為替が円安になると自動的に輸入額が増えてしまう。したがって、円安誘導でせっかく輸出が増えたとしても、その分を原油や天然ガスの輸入増が相殺してしまう可能性があるのだ。つまり、経常収支黒字を守るためには、いまの化石燃料大量消費型のエネルギー構造を変えていかなければならない。
方法は限られている。省エネ設備や機器を一気に増やして省エネによってエネルギー消費を減らすこと。再生可能エネルギーを急速に普及させること。さらには、原発を再稼働させることだ。すでに経常収支が赤字基調になっているのだから、時間的余裕はもう残されていない。
おそらく安倍政権は、原発再稼働を予定しているのだと思う。しかし、はっきりした基本方針を示していない。原発再稼働に踏み切るのは、7月の参院選の後だろう。しかし、エネルギー政策は国政の根幹なのだから、もし再稼働をしようとするなら、堂々と主張して参議院選挙を戦うべきだろう。