オリンピックやWBCといった国際舞台を戦う上でも二人の存在は大きく、頼もしかった。新井、杉内が投打の中心としての活躍が見られたのが2008年の北京五輪。チームとして苦しい戦いが続いた大会ではあったが、最後まで日本代表を支えた。
■五輪でも完璧な投球内容で相手を手玉に
北京五輪予選リーグ3戦目となる対オランダ戦。
この日の先発のマウンドを任されたのは杉内。初戦のキューバに敗れチャイニーズタイペイに勝利し、1勝1敗で迎えた日本代表は既にヨーロッパの強豪として捉えられていたオランダを相手に球界屈指のサウスポーを立て必勝を期した。
杉内は4回までをノーヒットに抑えるなど、代表戦初先発とは思えない見事な投球を披露。アマチュア時代から五輪の舞台を経験し、涼しげな表情を変えずに臆することなく投げ込む姿は自信に満ち溢れていた。
テンポのいいピッチングでオランダ打線を翻弄、7回を散発4安打に抑え日本の2勝目に大きく貢献する。北京の晴れ渡った広大な青空のもと、左腕から繰り出されるストレート、変化球は見とれるほどのキレを表現していた。
■怪我を抱えながらチームの支柱として
大会を通じて日本の4番という重責を担った新井も、このオランダ戦で快音を響かせる。初回、ランナー二人を置いて右中間に目の覚めるような3塁打を放った。
このヒットこそ北京五輪での新井の初安打となり、チームを一気に勢い付かせた。前年のアジア予選でも4番を任され、3試合を通じて打率.500と期待通りの打棒を発揮、本大会での信頼も揺らぐことはなかった。だが、シーズン中に腰を負傷、万全ではない中で北京での戦いに挑んでいる。
2戦目までノーヒットが続き、4番としての役割を果たせずにいた新井、オランダ戦では「自分らしく積極的にいこうと考えていた」と語るように初球を叩いたこの3塁打にチーム、そして野球ファンも大いに沸いた。5回にも安打を放ち試合も6−0で勝利、大勝の口火を切ったのが待ち焦がれていた主砲の快打だったことは明らかだった。
杉内はこの試合の好投により、7日後の準決勝・韓国戦でも先発、事実上のエースという存在としてメダル獲得が決まる「決戦」のマウンドも託されている。新井も全試合で4番を打ちフルイニングの出場を果たす。大会後に骨折と発表された腰の怪我と、日の丸を支える重みに耐え抜いた。
北京では目標としていた金メダルには届かなかったものの、二人の見せたパフォーマンスは日本代表として相応しいものだった。長きに渡りファンを楽しませてくれた新井、杉内の偉大なプレイヤーの輝かしい軌跡の中にあるあの夏の激闘、それらは確実に我々の記憶にも刻まれている。(佐藤文孝)