例えば、クリエイターやデザイナー、ジャーナリストなどは、何時間働いたらどうなるという仕事ではない。そこで、時間管理をやめて、好きなように働いてもらい、成果だけで管理しようというのが、制度本来の趣旨になっている。
ただ、自由な働き方という意味では、日本にも裁量労働制という仕組みがあり、労働者が働く時間を自由に決めることができる。しかし、裁量労働制が導入されても、企業が労働時間管理から解放されるわけではない。従業員が深夜残業をすれば、企業は割増賃金を支払わなければならないのだ。
ところがホワイトカラー・エグゼンプションの対象者は、そもそも労働時間を記録していないから、残業代が支払われることはない。それだけではない。もし従業員が過労死した場合でも、対象者は、労働時間の記録がないから、使用者責任を追及することが不可能に近いのだ。
実は、ホワイトカラー・エグゼンプションが取り沙汰されたのは、今から7年前、第一次安倍内閣のときだった。政府は、制度を導入する労働基準法改正案を準備していたのだ。ところが、その内容が知れ渡るにしたがって「残業代ゼロ法案」とか「過労死促進法案」といった批判の声が高まった。そこで当時の柳沢厚生労働大臣は、「対象者は、年収900万円以上で、実際の適用対象は2万人程度」と、対象者を大幅に絞り込む方針を示した。だが、最後は連立を組む公明党からも批判されるに及んで、安倍総理自らが「時期尚早」として、法案提出を見送る方針を表明し、お蔵入りとなったのだ。
ところが、それがまるでゾンビのように息を吹き返してきたのだ。安倍総理にとっては、捲土重来なのだろう。第一次安倍内閣のときにできなかったことを、いまの高支持のなかで、今度こそ実現しようとしているのだ。
しかも、今回の安倍総理は確実に進化している。いきなり労働基準法の改正を目指すのではない。今年秋に国会に提出される予定の「産業競争力強化法案」のなかに、特定の企業だけに規制緩和を認める「企業実証特例制度」がある。この制度を活用する形で、ホワイトカラー・エグゼンプションの実験的な導入を進める方針なのだ。
産業競争力強化法案の成立後、政府は導入を希望する企業の申請を受け付ける。現時点では、トヨタや三菱重工業などの超一流企業が対象となる可能性が高いといわれている。実に上手い方法だ。
超一流企業で導入すれば、問題点が顕わになる可能性は低い。その実績を踏み台にして、正式に労働基準法の改正案を成立させればよいのだ。
ただ、いくらステップを踏んでも、ホワイトカラー・エグゼンプションの本質は変わらない。サラリーマンが残業代ゼロで過労死寸前まで働かされる時代は、もう、すぐ目の前まできているのだ。